HODGE'S PARROT

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Thought

「平等」に抗して 〜 フィリス・シュラフリーの「特権を奪わないで」運動と中絶の権利

アメリカ合衆国について、アメリカ以外の国や地域に住む人は、どれくらい知らなければならないのか。アメリカ社会についてどれくらい学び、どれほどの知識を吸収し、それをどのように活かしているのかを誰に認めてもらえばいいのか。アメリカの事例を知り学…

ようこそ、この世界へ

2016年7月26日、神奈川県相模原市の障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で、その事件は起きた。激しいショックを受けた。19人が殺害され、26人が負傷したという事実だけでは捉えられない暴力と恐怖の世界に自分が生きていることを改めて思い知った。津久井や…

「殺人幇助」か「善きサマリア人」の二つに一つを他人に選ばせること 〜 グレッグ・ルッカの『守護者』を読んで(2)

(1)からの続き【自由意志を奪われないために 〜 「殺人幇助」か「善きサマリア人」の二つに一つを選択させる者への抵抗】 「あながたがの見ているものを見る目は幸いだ。言っておくが、多くの預言者や王たちは、あなたがたが見ているものを見たかったが、見…

「殺人幇助」か「善きサマリア人」の二つに一つを他人に選ばせること 〜 グレッグ・ルッカの『守護者』を読んで(1)

グレッグ・ルッカの『守護者』(KEEPER by Greg Rucka, 1996)を読んだ。プロフェッショナルのボディーガード、アティカス・コディアックを主人公に据えた第一作。妊娠中絶手術を行っているクリニックの医者とその一人娘の命を守ることが本書においてアティ…

”私たちはイスラエルのごろつき連中とは違います、清潔で上品でまるで違うユダヤ人です”と喚いている奴らへ──『イスラエルに生きる人々』より

イスラエルの作家アモス・オズ(Amos Oz, b.1939)は、エルサレムに生まれ、ヘブライ大学で哲学と文学を専攻、1967年の「六日戦争」(第三次中東戦争)及び1978年の「ヨム・キプール戦争」(第四次中東戦争)に従軍した。『イスラエルに生きる人々』(In the…

「ギリシャ語が下手だから、ユダヤ人が書いた?」

「福音書」解読 「復活」物語の言語学 (講談社選書メチエ)作者: 溝田悟士出版社/メーカー: 講談社発売日: 2013/10/11メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (4件) を見る溝田悟士の『「福音書」解読 「復活」物語の言語学』は聖書学に関する…

性格と時間 生の経験との関係について

マーサ・ヌスバウムの「幸福な生の傷つきやすさ 生きることとその悲惨さ」*1より。アリストテレスの『弁論術』における性格と年齢の関係についての考察──”この観察は逆境や不運を経験することがどれほど性格それ自体を傷つけうるかを明瞭に示している。” 若…

落下する猛獣──ジル・ドゥルーズの自殺には、それ相応のガッツがあったに違いない

澤野雅樹『死と自由』より。人間にとって病死や事故死は、自殺とは違って、試す/真似ることができない──そして自分で試すことの出来ない死に対してのみ、権力の介入が可能になる。ジル・ドゥルーズの自殺は、その本性においてスポーティだった。「死ぬこと…

神経症の家族小説は、ホモセクシュアルな欲望を神経症的ホモセクシュアリティへと変形させる

フランスの思想家・活動家であったギィー・オッカンガム(Guy Hocquenghem, 1946 - 1988)の『ホモセクシュアルな欲望』(1972)*1における、「男性身体」と「男性のホモセクシュアリティ」についての議論──問題なのはホモセクシュアルな欲望ではなく、ホモセ…

男子トイレの法 リー・エーデルマンのメンズ・ルーム

公衆の男子トイレの構造化=建築と、その利用者=保護者(パトロン)の自己反省的=反射的(セルフ・リフレクティヴ)な視線。直立不動(ストレート)で並び立っている他の誰かの宝石=金玉(ファミリー・ジュエル)を監視する/監視されるという二重の見解…

表徴の帝国でのハッキング、スラッシング、スナイピング

マーク・デリー(Mark Dery)*1が批判する「ある種の」政治──またはありえない未来デザインの裏面で 政治的な戦略としては、こうした抵抗の儀式――あなたの用語に従えば「破壊/転覆の神話」は、国民国家の粗野な権力と、こういったものを急速に時代遅れなも…

他の欲望の構造には還元できないその固有性

ゲイのセクシュアリティ、さらにいえば、セクシュアリティのもつポテンシャリティは、それが社会的なものを破壊するというところにこそある。「直腸は墓場か?」でベルサーニは、マッキノンやドウォーキンのセクシュアリティ理解を絶賛し、セックスを非暴力…

レオ・ベルサーニの直腸とキャサリン・マッキノンのポルノグラフィ

レオ・ベルサーニが『直腸は墓場か?』で重要視するキャサリン・マッキノンとアンドレア・ドウォーキンらによるセクシュアリティに対する視点 最近の研究が強調してきたところでは、ジョン・ボズウェルがいうように「美の基準がしばしば男性の原型にもとづく…

ただのXが救えなかった世界が、ただのYに救えるはずもない  上野千鶴子の『女は世界を救えるか?』より

「女性が世界を救う」という標語を支持する女たちの気負いと、男たちの無責任なおだてと高見の見物ぶりとは、こっけいなだけでなく危険でもある。女性性のそうした称揚は、女性性の蔑視の反転したネガにすぎず、少しも新しくはない。(中略) 男の側からは、…

”それはキリスト教の改心のようでした、私たちは突然、友情を見出したのです”

メアリー・ミッジリー(Mary Midgley)とジュディス・ヒューズ(Judith Hughes)による、倫理学/道徳哲学の観点を取り入れ「フェミニズムを考える」著書『女性の選択』(Women's Choices: Philosophical Problems Facing Feminism, 1983)より*1。二人は、…

ささやかな宣言 〜 リュス・イリガライ

リュス・イリガライ(Luce Irigaray、b.1930)の『差異の文化のために』*1を読んだ。その第1章「ささやかな宣言──平等を要求する女たちか、それとも差異を主張する女たちか」についてメモしておきたい。「女なら『第二の性』を読んだことのない人がいるだろ…

秘密

G・K・チェスタトンの『ブラウン神父の秘密』(The Secret Of Father Brown)を久しぶりに読み返した(他の短編も読み返そうと思う、何しろブラウン神父ものってミステリに興味を覚えたほとんど最初期に読んだものだし、したがってほとんど内容を忘れている…

このようにして彼らは、みずからの特権的な地位を享受しつつ、誰にでもわかるラディカルな良心を偽善的にもちつつけることができるのである

偽預言者を警戒しなさい。彼らは羊の皮を身にまとってあなたがたのところに来るが、その内側は貪欲な狼である。あなたがたは、その実で彼らを見分ける。 マタイによる福音書 7.15-16 (新共同訳『聖書』) パリサイ派の倫理的厳格主義は、あるいはピューリタ…

空気をコントロールすること

2005年、デンマークの新聞『ユランズ・ポステン』がイスラム教の預言者ムハンマドを風刺した漫画を掲載した。これに対し、イスラム諸国から激しい抗議が巻き起こった。大規模なデモ、暴力的な騒動、重大な外交問題に発展した。 この風刺画はムハンマドの12の…

「少しずつ、われわれは原住民の心を支配し、彼らの情をかち得る」

オリエンタリズムの問題──五十嵐太郎の『建築はいかに社会と回路をつなぐのか』の中でも、つまり建築について知る・語るうえでも重要な一つの指標として論じられている。 例えば、ウィリアム・チェンバースのキューガーデンの中国風パゴタやジョン・ナッシュ…

セクシュアリティと空間

五十嵐太郎の『建築はいかに社会と回路をつなぐのか』でセクシュアリティ関連の著作への言及がなされていた。その多くが邦訳のないものであり、個人的にも「建築」という非常に興味のあるテーマなのでそこからメモしておきたい。建築はいかに社会と回路をつ…

痛みを表現することとはどのようなことなのか、どうして痛みを表現することが困難なのか

学生オーケストラに所属していたときに、ある楽曲のスコア(総譜)から自分の楽器のパートの部分を写譜した。写譜することそれ自体に、しかも楽曲の一部分だけを写し取ることに、実際はそれほど意味はないのかもしれない。しかし、そう思いながらも、ブラー…

民族? ソレガ一体ドウシタト言ウンダ? 国家? 知ッタコトジャネエヨ

広野伊佐美『幼児売買 マフィアに侵略された日本』は、幼児、主にアジア周辺国、中南米の子供たちを、その性を搾取するための「現代の奴隷」としてだけではなく、臓器摘出用の「生贄」として売買している人物たち──著者である広野氏は”悪魔”と呼んでいる──の…

エコロジカル・フェミニズムについて

大越愛子『フェミニズム入門』より「エコロジカル・フェミニズム」について記しておきたい。エコロジカル・フェミニズム(エコフェミニズム、Ecofeminism)とは、人間と自然的なものに階層を置く近代的自然観を最も先鋭に問題化にしているフェミニズム思想・…

”教会側は、いつもこの手をとる”

酒井健の著書『ゴシックとは何か 大聖堂の精神史』を読んでいて(読み返していて)、ちょっと記憶に留めておきたい「事例」があった──この著書では教会、すなわちキリスト教の布教戦略として興味を惹く事例なのだが、他の、例えば他の様々な「政治的な」文脈…

サント=クロチルド教会とゴシック・リヴァイヴァル

以前、パリに行ったときに、かねてからの念願だったモンパルナス墓地にある、敬愛する作曲家セザール・フランク(César Franck、1822 - 1890)の墓を訪れた。6月、今度は、そのフランクが死の年まで教会オルガニストを務めていたサント・クロチルド教会(Bas…

要するに、生命にはひとつの基本的な傾向しかない。すなわち無生物の「安定状態」に戻るという傾向、つまり死に向かう傾向だ。

西谷修『戦争論』の第一章「世界戦争」を再読した。個人的に多くの示唆を得た──しかし、それは、この論考で、あるいはこの一冊の著書全体で著者が読者に向けて意図して描いたであろうことを受け止めたかどうかとは、無関係である。気になった部分をメモして…

徹底してフィロゾフィーレンせよ! 〜 オーストリアの哲学教育

島崎隆 著『ウィーン発の哲学 文化・教育・思想』より、第二部 ”オーストリアの教育と「哲学すること」” についてメモしておきたい。そのタイトルのとおり、オーストリアの学校教育に関する考察だ。 もともと僕がこの本を手に取ったのは、第三部の”「オース…

アナーキズム

浅羽通明『アナーキズム』(ちくま新書)をパラパラと読んでいるのだが、これが面白い。とくに笠井潔がアナルコ・キャピタリストとして一章が設けられているところ。 また松本零士の『キャプテンハーロック』なんかもアナーキストとしての「アニメ・ヒーロー…

ジュディス・バトラーのサイト

http://www.theory.org.uk/ctr-butl.htm『触発する言葉』(岩波書店)の翻訳を記念して。