クィア理論の信憑性
高橋たか子の『人形愛』を2回読んだ。1度目で、どのような小説であるのかをおおよそ理解した。一言で言えば、それは夫の自殺により絶望した中年女性の異様な心理状態を幻想的に描いたものであった、と1行で済ませることができるだろう。ただ、これだと、「ネ…
アメリカ合衆国について、アメリカ以外の国や地域に住む人は、どれくらい知らなければならないのか。アメリカ社会についてどれくらい学び、どれほどの知識を吸収し、それをどのように活かしているのかを誰に認めてもらえばいいのか。アメリカの事例を知り学…
2016年7月26日、神奈川県相模原市の障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で、その事件は起きた。激しいショックを受けた。19人が殺害され、26人が負傷したという事実だけでは捉えられない暴力と恐怖の世界に自分が生きていることを改めて思い知った。津久井や…
以前、Twitter のフォロワーさんから教えてもらったレベッカ・ブラウンの『体の贈り物』を読んだ。『体の贈り物』は、主にエイズ患者を介護するホームケア・ワーカーである〈私〉を語り手にした連作短編集で、一つ一つの短編はそれだけでストーリーは完結し…
エラリー・クイーンの『Yの悲劇』を最初に読んだのは小学生のときだった。学校の図書館にあった「文研の名作ミステリー」という子供向けにリライト(超訳か)されたシリーズの一冊で、他にアガサ・クリスティの『ABC殺人事件』やジョン・ディクスン・カー『…
映画の冒頭、ブレンダン・フレイザー演じるデヴィッド・グリーンは埃っぽい寂れた町のカフェで、仲間たちから仲間たち同士ならではの荒っぽい祝福を受けている。荒っぽい連中であるがゆえに表には出さないが、それでも感傷的な別れのニュアンスがそれぞれの…
トム・クルーズは好きな俳優なので、そのことを中心に映画『ザ・ファーム 法律事務所』の感想を気楽に書こうと思った。しかし、その中のあるエピソードのことを書いているうちに、それが何かと何かをつなぎあわせ、それによって様々な思いがよぎり、キーを打…
映画『ダ・ヴィンチ・コード』を今頃になって観た。10年以上前に公開されたヒット作で、ダン・ブラウンの小説もベストセラーになっているので、ミステリーであるが内容をある程度明かしながら以下に映画を観た感想を。人類史上最大の謎を解く!映画『ダ・ヴ…
(1)からの続き【自由意志を奪われないために 〜 「殺人幇助」か「善きサマリア人」の二つに一つを選択させる者への抵抗】 「あながたがの見ているものを見る目は幸いだ。言っておくが、多くの預言者や王たちは、あなたがたが見ているものを見たかったが、見…
グレッグ・ルッカの『守護者』(KEEPER by Greg Rucka, 1996)を読んだ。プロフェッショナルのボディーガード、アティカス・コディアックを主人公に据えた第一作。妊娠中絶手術を行っているクリニックの医者とその一人娘の命を守ることが本書においてアティ…
まず、この物語の梗概を記しておこう。神学を学んでいる「わたし」が発見する幽霊屋敷、好奇心溢れる「わたし」が発見したその幽霊屋敷に取り憑いている幽霊──その幽霊は父親に死に追いやられた娘の霊であることを「わたし」は突止める。さらに、幽霊屋敷に…
北森嘉蔵の『神学入門』に附録された『神学短章』のいくつかの文章より、キリスト教信仰とキリスト教神学、および、一般信徒と神学者/宣教者の関係について、そこで教え説かれていることをまとめておきたい。内容は、以前『神学入門』について書いたこと(…
不干斎ハビアンの思想:キリシタンの教えと日本的心性の相克作者:梶田 叡一発売日: 2014/04/11メディア: 単行本つい最近まで不干斎ハビアン(1565 - 1621)という人物についてまったく知らなかった──それは後で引用する山本七平(イザヤ・ベンダサン)の著名…
「クィア」を標榜すれば、それを望まぬ人たちに対してペドフィリアとその利害関係者の要求に従うよう恫喝することが許されるか? 私の書いた小説は、”社会参加の文学”であり、私の最終目標は、たんに読者を楽しませることではなくて、多くの人に社会の現実を…
「学会」に相応しい言語とはいったいどの言語なのか、誰がそれを決めることが出来るのか。「学会」に相応しい言語と、そうでない言語の線引きは誰のどのような権威でもって決められるのか──しかもそれが「ナショナルな」言語に帰結してしまう意味は何なのか…
D・A・ミラーの『小説と警察』より*1。小説(フィクション)というリベラルな空間が、いかに「自由」を生産しているかのように見えながら実際は権力に組み込まれているのではないか。”ミラーの図式では、犯罪者は自分の「自由」を信じて、権力の外部に立って…
「原初の無垢のことを忘れてはいけない」と語りかける、無垢に通じる名前を持つ教皇とローマ教皇庁という制度の両義性 アシジの聖フランシスコと聞けば、すぐさまフランコ・ゼフィレッリ監督1972年の伝記映画『ブラザー・サン、シスター・ムーン』を思い浮か…
戸籍謄本とは、戸籍原本に記載されている人全部を謄写(複写)したもの。 全部事項証明ともいう。 戸籍抄本や戸籍謄本は、パスポートの取得申請をする際など、戸籍を証明する場合に必要となる。 戸籍抄本または戸籍謄本のどちらを提出しても構わない場合は、…
この著作(Primate Visions/ 霊長類の視角)のタイトルは多義的である。霊長類ということばは、ヒトも含む霊長目全般を総体としてさし示すと同時に、人類が圧倒的に優位なこの世界にあって、人間によって見られる類人猿やサルたちという位置関係をも反映し…
ロジャー・キンボードの『終身在職権をもったラディカルたち』には、最近の流行にのった軽簿な教授たちの姿がそれにふさわしい軽蔑の念をこめて描かれているが、わたしはその中の一節に修正を加えたい。キンボールによると、六〇年代のラディカルはいまや一…
偽預言者を警戒しなさい。彼らは羊の皮を身にまとってあなたがたのところに来るが、その内側は貪欲な狼である。あなたがたは、その実で彼らを見分ける。 マタイによる福音書 7.15-16 (新共同訳『聖書』) パリサイ派の倫理的厳格主義は、あるいはピューリタ…
タイトルはカミール・パーリアが『セックス、アート、アメリカンカルチャー』(野中邦子 訳、河出書房新社)の中で言及していた、ロジャー・キンボール/Roger Kimball の著書より。大学に巣食う、高給取りで安定した地位を得ている左翼学者を批判したものだ…
高橋哲哉の『靖国問題』から第三章「宗教の問題──神社非宗教の陥穽」についてメモしておきたい。とくにキリスト教との関係で。宗教の問題が浮上してくるのは、首相の靖国参拝に対して、憲法の政教分離規定に基づいた「違憲」の確定判決が複数存在しているこ…
盛山和夫『社会科学の理論とモデル3 権力』(東京大学出版会)を読んだ。「権力」と言えば「フーコーの」というディシプリン状況において、それ以外の権力モデルを紹介する……のみならず、フーコーの権力論を批判しているのが、とても、新鮮だった。フーコー…