HODGE'S PARROT

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リヒャルト・シュトラウス 楽劇《サロメ》



どちらかというとオペラは苦手なジャンルで、新ウィーン学派以降の現代作品──何よりも「音響」の新奇さに興味を惹く──を除くと、全曲盤CDはほとんど持っていない。苦手な理由として、「音楽以外の要素」が含まれる作品を「音楽だけ」に特化して鑑賞するのは無理があると言われればそうだけど、個人的にはその「長大さ」にどうしても「退屈さ」を感じてしまう。その点、リヒャルト・シュトラウスのオペラ作品は意外にコンパクトかもしれない。
クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮&コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団による《サロメ》公演のDVDを観てみた。


実は初めて《サロメ》を通しで観た/聴いた。原作はオスカー・ワイルドの戯曲で、なるほど、エロティックな雰囲気が漂っている。有名な「サロメの踊り(7つのヴェールの踊り)」も、照明の変化と様々な色彩のヴェールによって視覚的効果抜群だ。やはりオペラは観るものだと思った。キャサリン・マルフィターノによる歌と演技も素晴らしい。

もちろん、主役のサロメ以外も素晴らしかった。というか、ヨカナーンブリン・ターフェル)が凄いマッチョでしかもサロメに負けじと肌を露出していることに驚いた。さすがオスカー・ワイルド(ry。
それとなんと言っても印象的だったのが、ヘロデ王役のケネス・リーゲル。まるでマフィアのボスみたいで、聖書の物語というよりも、ハリウッド映画的な「悪」を感じさせる俗っぽさが見事。一緒に登場するヘロディアス王妃も何気に存在感があった。

しかし、ドホナーニ指揮による「音響」が最高だ、と、どうしても記したくなるのは、まだオペラという「総合芸術」なるものをよく理解していないからかもしれない。

Salome (Dover Fine Art, History of Art)

Salome (Dover Fine Art, History of Art)


ところで、ワイルドの『サロメ』は、オーブリー・ビアズリー(Aubrey Beardsley)による挿絵が有名だが、ビアズリーの絵の中にはワイルドを茶化した落書きがある。ワイントラウブの『ビアズリー伝』には、『サロメ』のフランス語版(もともとフランス語で書かれた。英訳は「ボジー」ことアルフレッド・ダグラス卿)に取り組んでいる作家をシニカルに見ているビアズリーが描かれており、これがなかなか辛辣だ。

サロメ』の挿絵の中のそうした「落書き」の一つは、明らかにオスカーの学問に当てつけたものである。オスカーは『サロメ』をフランス語で書き終えた後で、何も参考書を調べる必要がなかったと自慢したが、ビアズリーはそれに対して個人的論評を加えたのである。
「執筆中のオスカー・ワイルド」と題されたその挿絵には、うずたかく大部の本が積まれた机に向かって執筆中の、書斎における気取った劇作家オスカーが描かれていたが、それらの本の中には、家庭用聖書、『ドリアン・グレイの肖像』『三つの物語』、スウィンバーンとゴーチエの作品、ヨセフスの歴史書、『一目で分るフランス語の動詞変化』のほかに、一冊のフランス語の辞書とフランス語の『入門書』があった。




スタンリー・ワイントラウブ『ビアズリー伝』(高儀進 訳、中公文庫)p.109

ビアズリー伝 (中公文庫)

ビアズリー伝 (中公文庫)