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レコード芸術「シューマンとその時代」



レコード芸術』最新号(2006年10月号)は、待望のシューマン特集。2006年はロベルト・シューマン没後150年という記念すべきシューマン・イヤーなのに、レコ芸では、これまでモーツァルトの特集ばっかり……でもショスタコーヴィチは特集があったのに……と憤りを感じていた皆さん、おまちどうさま!

レコード芸術 2006年 10月号 [雑誌]

レコード芸術 2006年 10月号 [雑誌]


表紙にはクリーフーバーの銅版画が使用されている。ロベルト29歳のときのもので、数ある彼のポートレイトの中で、一番ハンサムに描かれているものだろう。この銅版画が描かれた1839年前後には、《クライスレリアーナ》や《幻想曲ハ長調》《フモレスケ》といったピアノ曲の傑作が作曲され、1840年はいわゆる「歌の年」、《詩人の恋》を始めとする一連の歌曲を世に送り出した。クララ・ヴィークとの結婚も1840年だ。
記事の内容は、シューマン研究の第一人者、前田昭雄氏の「巻頭言」から、「シューマンの生涯とその作品」「ジャンル別聴きどころ&おすすめディスク」「シューマンとその時代の音楽」「古今のシューマンの名演奏家たち」「私の好きなシューマン「この1枚」」と、様々なアプローチでシューマンという音楽家の情報を提供する。これら「シューマンに関すること」を読めば、19世紀前半のドイツを生きた「男の愛と生涯」を俯瞰でき、シューマン通を自負できるだろう。
紹介されるディスクも多数──《クールマンの7つの詩》作品104*1や《ばらの巡礼》作品112といったあまり演奏されない作品、《マンフレッド》も「序曲」ではなくて「劇音楽」作品115が紹介されている。嬉しい企画だ。

Songs Vol. 3

Songs Vol. 3

Der Rose Von Pilgerfahrt

Der Rose Von Pilgerfahrt

  • アーティスト: Guido Paëvatalu,Robert Schumann,Gustav Kuhn,Annemarie Møller,Elizabeth Halling,Danish National Radio Symphony Orchestra,Inga Nielsen,Helle Hinz,Deon van der Walt,Danish National Radio Choir
  • 出版社/メーカー: Chandos
  • 発売日: 1995/04/18
  • メディア: CD
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シューマン:劇音楽「マンフレッド」

シューマン:劇音楽「マンフレッド」


ところで前田昭雄氏の文章を読んでいて懐かしく思ったのが、「衝撃のLP」として挙げられていたスヴャトスラフ・リヒテルの演奏。このレコード、僕も家にあったのをよく聴いていた。

シューマン:P協奏曲イ短調

シューマン:P協奏曲イ短調


このリヒテル盤には、有名なピアノ協奏曲イ短調作品54のカップリングとして《序奏とアレグロ・アパッショナータ》作品92という協奏曲的作品が入っているのだが、10代の頃、僕はこの曲の魅力の虜になっていた。ロマンティックで、詩的で、幻想的で、情熱的──イ短調協奏曲に決して引けを取らない充実した内容を持つ音楽だ。前田氏同様、今でも大好きな曲だ。もっともリヒテルの演奏は録音がちょっと古いかな、と今ではアシュケナージの演奏を愛聴しているが。

十代のシューマンは、詩と音楽の両方で幸せに夢を見ていた。どちらかの領域に集中して創作するのではなくて。行動なき夢想は実を結ばない。夢みているだけでは、作品としての〈トロイメライ〉は生まれない。パッシヴな夢想を、アクティヴ、アグレッシグな行動によって克服すること。芸術創作はその上で可能になる。


(中略)


しかしシューマンは、音符だけ書いているのではなかった。新しい分身たち(=フロレスタンとオイゼビウス)にもペンを託して、文字でもどんどん書き続ける。しかしそれはもはや多感な抒情詩ではなくて、社会でも自己実現につながる行動的な文章へと変わっている。


若きシューマンが──単に抒情の中にうずくまらないために──自らが課した自己テラピーは、かなり過激なものだった。彼は若干24歳の身で同人と語らい、『音楽新報』を創刊、批評の筆を手に世に撃って出たのだったから。
「攻撃するのだ、世界がより良くなるように、攻撃するのだ! 詩的芸術の復権のために!」(『音楽と音楽家についての評論集』(ライプチッヒ1854年 序文4ページ)




前田昭雄「シューマン没後150年 半世紀の追跡を回顧して」

また『音楽の友』2006年8月号でも「没後150年 シューマン大好き!」というシューマン特集があった。


こちらでは、マウリツィオ・ポリーニ、スティーヴン・イッサーリス、白井光子らの「シューマンを語る」インタビューが読める。ピアニスト、ポリーニシューマン全作品の中で《ファウストからの情景》を第一に挙げる。ピアノ曲では《暁の歌》が好きだと語る。メゾ・ソプラノ歌手、白井光子は「シューマン長調短調が近い。きれいなリボンのよじれのように裏も表も美しい。そして、それが見事に織り成されている」と語る。
そしてチェリストイッサーリスはこんなことを語っている。

シューマンのチェロ協奏曲は大嫌いです(笑)。とても難しい作品だから。僕はヴァイオリン協奏曲の方が好きですね。それにしても、シューマンの記念年なのに、ヨーロッパではモーツァルトショスタコーヴィチばっかりでシューマンの特集は極めて少ない。残念なことです。




シューマンを語る──スティーヴン・イッサーリス

シューマン:クライスレリアーナ

シューマン:クライスレリアーナ

Lieder/Myrthen

Lieder/Myrthen

シューマン : チェロのための作品全集

シューマン : チェロのための作品全集

*1:エリザーベト・クールマン(Elisabeth Kulmann、1808-1825)は、喜多尾道冬氏によれば、ロシアに生まれたドイツ系の「天才少女」で、13歳で11ヶ国語をマスター、何千という詩を書いたという。ゲーテにも賞賛されたが、彼女はわずか17歳で亡くなった。