ちくま学芸文庫よりウラディミール・ジャンケレヴィッチの『イロニーの精神』が復刻するようだ。(via.悪漢と密偵)
この本、一応哲学書なんだけど、ドビュッシーやラヴェル、モンポウなどについての著書もあるジャンケレヴィッチだけあって、全体的に音楽に満ち満ちている。「ほとんど」音楽書のようなものだ。
シューマンの『ダヴィッド同盟舞曲集』のエピグラフには、「いついかなる時でも、欲望と苦悩は結びついている」と書かれてある。ゆれ動く意識は、決心することも、決定することもできず、それはギレスが言うように、悲しく、かつ冷笑的、「喜びあふれ、苦悩にみち」、陽気で憂鬱、ひどく気紛れで、ひどく冷たく、それはハインリッヒ・ハイネによれば、はっきり違った二つの気候が一緒になった凍てついた平原のようである。『ユーモレスク』(フモレスケ)を作曲しているときのシューマンは、こう書いている。「今日、私はピアノの前にすわり、まるで子供のように笑ったり、すすり泣いたりした」。
またドビュッシーも、『フルート、ヴィオラ、ハープのためのソナタ』について、ほとんど同じような言葉で、こう語っている。「……この曲を人が笑うべきか、泣くべきか、私にはわからない。おそらくその両方だろうか」。
プロコフィエフの『皮肉』(サルカスム)では、この二つの雰囲気が激しく入れかわる。この悲喜劇的で「喜悲劇的」なユーモアの気ちがいじみた支離滅裂ぶりや、突飛さは、そういうところから由来する。
ジャンケレヴィッチ『イロニーの精神』(久米博 訳、ちくま学芸文庫) p.194
- 作者: ウラディミール・ジャンケレヴィッチ,久米博
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1997/10
- メディア: 文庫
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