ドイツのピアニスト、ラルス・フォークト(Lars Vogt、b. 1970)の演奏によるモーツァルトの二枚組。
- アーティスト: Wolfgang Amadeus Mozart,Lars Vogt
- 出版社/メーカー: EMI Classics
- 発売日: 2005/12/01
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これは良かったな。モーツァルトは個人的にはあまり「得意ではない」作曲家なのだが、このフォークトの演奏を聴くと、ドビュッシーの言い方に倣って「ショパンの右ではなくてシューマンの左……斜下」あたりにその楽曲を置きたくなる。
ま、冗談はともかくとして、収録曲は、
- ピアノソナタ第10番ハ長調 K.330
- ピアノソナタ第11番イ長調 K.331
- ピアノソナタ第12番ヘ長調 K.332
- 幻想曲ニ短調 K.385g(K.397)
- 幻想曲ハ短調 K.475
- ロンド ニ長調 K.485
- ロンド イ短調 K.511
- デュポールの主題による9つの変奏曲ニ長調 K.573
- アダージョ ロ短調 K.540
何よりも現代のピアニストが現代のピアノ(スタインウェイ)を使用して現代の聴衆にストレートにアピールしているのが、とても良く伝わってくる。ペダルを絶妙に使用し、ときに重い和音を鳴らし、幅広い強弱と肌理やかな音色を駆使する。現代ピアノの持つ表現力というものを再認識させてくれる。
例えば、 K.330 の溌剌さ、《トルコ行進曲》のスピード感*1、 K.332 のクリスタル・クリアーな輝かしさ。長調のモーツァルト──《トルコ行進曲》はイ短調でスタートするが──の魅力を実に清々しく生き生きと聴かせてくれる。
一方、二枚目に入ると短調作品が出てくるのだが、それに相応しくフォークトはロマンティックなスタイルで攻めてくる。例えば二つの幻想曲。低音を深く重く響かせ、音楽はドラマティックに展開しながら、デリケートな情感を湛えている。しかも徹頭徹尾ピアノの音が美しいのだ。本当にシューマンの《幻想曲ハ長調》の左にでも置こうかなと思った。
ちなみにブックレットはフォークト自ら書いている──”This recording represents my quite personal rediscovery of Mozart's piano music.”と冒頭で述べ、ニコラウス・アーノンクール/Nikolaus Harnoncourt のインタビュー記事を引き、自分がいかに(クラウディオ・アバドやサイモン・ラトルがそうであるように)アーノンクールに影響を受け(I too owe a large debt of gratitude to Harnoncourt とまで書く)、このレコーディングで自分はアーノンクールがオーケストラ作品で果たした「historical performance practice」をピアノ音楽で追求している、と記す。
このピアニストの才気は伊達じゃない。
[Lars Vogt Homepage]
どーでも良い「個人的な」ことなのだが……《トルコ行進曲》のような子供の頃暗譜して弾きまくったような、今でも写譜できるような音楽を聴くと、どーでも良いことがいろいろと思い出される。たしか『ビバリーヒルズ青春白書』(Beverly Hills, 90210)で僕の好きだったデビット・シルバー(ブライアン・オースティン・グリーン/Brian Austin Green)が目の見えないピアニストに教わるのが《トルコ行進曲》だったよな、デビットと同じく自分も「あのレガート」で苦労したな、と「そのテレビ番組を見ているそのときに」思ったよな、とか。
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DVD のBOX はまだ高校白書の第一シーズンまでか。スティーブ絡みで、社交クラブの部長がゲイだったときのエピソードとかもう一度観たいな。
少したって、陰気に過ごしたその一日と、明日もまた物悲しい一日であろうという予想とに気を滅入らせながら、私は何気なく、お茶に浸してやわらかくなったひと切れのマドレーヌごと、ひと匙の紅茶をすくって口に持っていった。ところが、お菓子のかけらの混じったそのひと口のお茶が口の奥にふれたとたんに、私は自分の内部で異常なことが進行しつつあるのに気づいて、びくっとした。素晴らしい快感、孤立した、原因不明の快感が、私のうちにはいりこんでいたのだ。
マルセル・プルースト『失われた時を求めて スワン家の方へ1』(鈴木道彦 訳、集英社文庫) p.108
Beverly Hills 90210 Season 5 Credits
*1:これが最速かと思ったが、アルフレッド・ブレンデルの老人力(このときはまだ中年だったか)には負けていた。フォークト "3.02"、ブレンデル "2.48" だった