アシュレー・ウェイス/Ashley Wass のセザール・フランクがなかなか良かったので、このピアニストのCDをいくつか買ってきた。
その中の一枚で、イギリスの作曲家アーノルド・バックス(Arnold Bax、1883 - 1953)のヴァイオリン・ソナタ集。第1番(1910年、1945年改訂)、第3番(1927年)に加え、第1番の改訂で削除されたオリジナルの第2楽章、第3楽章が収録されている。
ヴァイオリンはローレンス・ジャクソン/Laurence Jackson。彼はマッジーニ四重奏団(MAGGINI QUARTET)のメンバーでファーストヴァイオリンを担当している。
- アーティスト: Arnold Bax,Ashley Wass
- 出版社/メーカー: Naxos
- 発売日: 2006/10/31
- メディア: CD
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実はバックスを聴くのは初めてで、どんな感じの音楽なのだろうと、ちょっとわくわくしてオーディオのスイッチを入れた。流れてくる音楽は……それは美しくロマンティックだった。フォーレ、あるいはメンデルスゾーンあたりに通じる優雅で感傷的な音楽だった。
作曲された時期からすれば、著しく、頑迷なくらい「保守的」と言えるだろう。まあイギリスの音楽が総じて──もちろん一部の(あまり「有名ではない」)アヴァンギャルド系の作曲家を除いて──保守的な作風とも言えるのだが。例えば、現在人気絶頂のトーマス・アデス/Thomas Adès にしても、過激なジャスチェーのわりには、その音楽は、前衛=現代音楽とは言い難い。『のだめカンタービレ』でも、エルガーの「古典的」で「単純」というイメージを物語に巧みに反映させていた。
もちろん保守的あるいは古典的という言葉はネガティヴなだけではない。バックスの持つ抑制の効いた構成感は、自意識の過剰さや「通俗さ」とは一線を画している。とても洗練されたジェントルな音楽に仕上がっている。ヴァイオリン・ソナタ第1番が、作曲当時ハリエット・コーエンというピアニストとの情事に結び付けられていてもだ──解説を読むとバックスは「恋多き男」として有名で、自筆譜にはアイルランドの詩人、ウィリアム・バトラー・イェイツが意味深に引用されているのだという。
ちなみにバックスはW.B.イェイツに深い共感を寄せており、 Dermot O’Byrne というアイルランド風のペンネームで詩を発表していたそうだ。
Bax’s poetry and stories, which he wrote under the pseudonym of Dermot O’Byrne, reflect his profound affinity with Irish poet William Butler Yeats and are largely written in the tradition of the Irish Literary Revival.
ヴァイオリンの技巧は、決して誇示するような押し付けがましさがなく、それでいて絶妙な効果を発揮している。加えて、これらの曲では、ピアノが重要な役割を担っており、ウェイスのピアニスティックなセンスが見事にそれに応えている。両者によって得難いムードを醸し出す。「二重奏」とは、かくあるべきであろう。