ロベルト・シューマンとはまた違ったロマンティックさがたまらない、フェリックス・メンデルスゾーンの音楽を聴きたくなった。例えば、ピアノ三重奏曲──第1番ニ短調 Op.49 と第2番ハ短調 Op.66 。ラックからすぐに見つかったCDは、ボロディン・トリオの演奏によるものだ。
- アーティスト: Mendelssohn,Borodin Trio
- 出版社/メーカー: Chandos
- 発売日: 1992/10/28
- メディア: CD
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メンデルスゾーンの音楽は、例えば有名なヴァイオリン協奏曲ホ短調 Op.64 がそうであるように、いきなり「とびきりのメロディ」が現れる。ピアノ三重奏曲第1番の第一楽章でも、ピアノの波打つような響きに支えられながら、チェロが哀愁を帯びた主題を奏し、それがヴァイオリンに引き継がれる。その美しさには陶然とさせられる。「アジタート」という楽想指示のとおり、情熱さにも不足しない。
いちおう YouTube にいくつかの演奏がアップされているので「その、とびきりのメロディ」を知ってもらえたら、と思う。
Mendelssohn: Piano Trio in D minor - Molto Allegro Agitato
で、ボロディン・トリオのCDであるが、レーベルが英シャンドス/Chandos なので、てっきり輸入盤かと思っていたら日本語解説がついていた──西ドイツ!でプレスしたもの(Printed in West Germany)を日本国内用に解説をつけて販売したものであった。録音は1984年。
ブックレットには、楽曲の解説だけではなく、ボロディン・トリオ/Borodin Trio についても書いてあった。それによるとボロディン・トリオは、ソ連を代表する弦楽四重奏である(この時点で「あった」と言ったほうがいいのかもしれない)ボロディン四重奏団の第一ヴァイオリンのロスティスラフ・ドゥビンスキー/Rostislav Dubinsky が、1976年にアメリカに亡命して結成した団体なのであった。ピアノのリューバ・エドリーナ/Luba Edlina はドゥビンスキーの夫人であり、チェロのユーリ・トゥロフスキー/Yuli Turovsky も別の時期にカナダに亡命した元モスクワ室内管弦楽団のメンバーであった。
ボロディン・トリオが、ソビエトから亡命した音楽家たちによって結成されたという解説を読んでいたら、プロテスタントに改宗したユダヤ人作曲家メンデルスゾーンの音楽のメロディが、より「とびきりの、そして切実なもの」として響いてきた。ドゥビンスキーはユダヤ系であったし、多分、他の二人もそうなんだろうと思う。
ロスティスラフ・ドゥビンスキーは『Stormy Applause: Making Music in a Worker's State』*1という本を書いている。「Music under soviet rule」という Southern Illinois University Edwardsville のサイトに、このドゥビンスキーの著書についての記事があった(残念ながら運営者の Ian MacDonald 氏はお亡くなりになったようだ)。
- http://www.siue.edu/~aho/musov/2test.html [Music under soviet rule」
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*1:http://www.amazon.com/dp/0809088959 Stormy Applause: Making Music in a Worker's State