ええと、ヒラリー・ハーンの新譜──シベリウス&シェーンベルクのヴァイオリン協奏曲──だけを求めてショップへ行ったわけです。 でも ↓ のCDが目に入って、買ってしまいました。そう、いわゆるジャケ買いです。
フィリッペ・クィント/Philippe Quint はロシア出身で、現在はアメリカの市民権を得ているヴァイオリニスト。愛用の楽器は1723年製のストラディヴァリウス「Ex-Kiesewetter」。これまで Naxos からネッド・ローレム(Ned Rorem、b.1923)やレナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein、1918 - 1990)、ウィリアム・シューマン(William Schuman、1910 - 1992)といった現代アメリカの作曲家の作品をリリースしているようだ*1。
[Philippe Quint]
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このCDは、ハンガリー出身で(クィントと同じく)アメリカで活躍したミクロス・ロージャ(ミクロス・ローザ、ロージャ・ミクローシュ、Miklós Rózsa、1907 - 1995)のヴァイオリン曲が収録されている。
- ハンガリー民謡の主題による変奏曲 Op.4 1929
- ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲 Op.7 1931
- 北部ハンガリー民謡と踊り Op.5 1929
- 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ Op.40 1986
作曲年代に開きがあるが、どの曲も調性を感じさせるものばかりで、いわゆる「現代音楽」の持つ晦渋さはない。「無伴奏」ではバルトーク風の苦味もあるが、ときに哀愁を帯びた旋律が肺腑を抉るように響く、とても印象的な音楽だ。クィントの技巧も申し分ない。
ミクロス・ロージャ(ローザ)は以前、やはりナクソスから出ていた『ワルソー・コンチェルト 映画を彩るピアノ協奏曲集』で、ヒッチコック映画『白い恐怖』の音楽を元にしたピアノ協奏曲を聴いたことがあり、それは甘美で波乱万丈なドラマに相応しいロマンティックなメロディと電子楽器テルミンを使用した摩訶不思議な音響のミックスが面白かったのだが、フィリッペ・クィントのこのCDを聴くと、「クラシック音楽としての」魅力を正攻法で表現する技量の持ち主であることがわかる。映画音楽の作曲家として著名なロージャの多彩さを窺い知ることのできる絶好のアルバムだと思う。
→ ロージャ・ミクローシュ [ウィキペディア]
アメリカ合衆国で映画音楽の作曲家として活躍し、『深夜の告白』(1944年)、『白い恐怖』(1945年)や『二重生活』(1947年)、『クォ・ヴァディス』(1951年)、『緑の火・エメラルド』(1954年)、『ベン・ハー』(1959年)などで名声を博した。『白い恐怖』はロマン派的な、どことなくシューマンやラフマニノフを思わせるピアノ協奏曲の様式で作曲されており、またテルミンが利用されていることで有名。映画音楽「ベン・ハー」は、後に管弦楽組曲としても編み直された。1970年にはビリー・ワイルダー監督の『シャーロック・ホームズの私生活』にも楽曲を提供し、1970年代の終わりまで映画音楽の作曲を続けた。
*1:ローレムのカヴァーはジャン・コクトーじゃないか! 粋だ。後で買おう。 Flute Concerto / Violin Concerto