水曜日には水曜日の音楽を。というわけで、カールハインツ・シュトックハウゼン(Karlheinz Stockhausen、b.1928)のオペラ≪光≫(Licht/Light)の「水曜日」より、あ・の・名・高・い≪ヘリコプター弦楽四重奏曲≫(Helikopter-Streichquartett、1992-1993)を聴いた。
演奏は、初演者でもあるアルディッティ弦楽四重奏団(Arditti Quartet)の素晴らしい力演で。
- アーティスト:Stockhausen
- 発売日: 1999/10/26
- メディア: CD
説明するまでもないだろう。この≪ヘリコプター・クァルテット≫は、プレイヤーがヘリコプターの機内で演奏する、というものだ。つまり「最低でも必要な楽器&奏者」は、弦楽四重奏──ヴァイオリン奏者二人、ビオラ奏者、チェロ奏者──に、4人それぞれが「乗り込む」ための「ヘリコプター4台+ヘリコプターのパイロット4人」となる(さらに様々な音響スタッフ、録音スタッフが必要なのは言うまでもない)。
ヘリコプター内で演奏するという行為、状況、それにヘリコプターの「奏でる」サウンド、さらには空中で旋回するヘリコプターから「届く音」が重要なのである。
このCDでは、タービンを「機動」させ「離陸」から「着陸」まで31分51秒──これが演奏・上演時間である。いちおう以下の5つの部分にトラックが分かれている。
≪Helicopter String Quartet≫
- ignition of the turbines entry of the instrument
- 1st formula cycle
- 2nd formula cycle
- 3rd formula cycle
- descent silence at the end
ところで僕は一度だけヘリコプターに乗ったことがある。ハワイに行ったときだ。このシュトックハウゼン作曲の、前代未聞の「音響装置」を必要とする現代音楽を聴くと……ハワイのあの青い海、緑々した台地、眩い太陽、スイムウエアの筋肉質の男たち……を思い出す……が現前する……あの心揺さぶる振動音……。
んなわけない。
でも、≪ヘリコプター≫は、これまで聴いたシュトックハウゼンの曲の中で、最もエキサイティングな作品だと思う。アルディッティのメンバーが「アイン!」「ツヴァイ!」と叫ぶところなんか、まるでロックのようなノリだ。カッコイイ! BOSE のスピーカーセットも、とくに「ヘリコプターの重低音」を良く響かせてくれる──この楽曲、オーディオチェック用としてもイケるだろう。
ちなみに「ヘリコプターの音響」は↓のような感じかな。
Helikopter Wintersport
この≪ヘリコプター≫は、あ・ま・り・に・も「有名な」曲なので、作曲者本人が語っているのを始め、いくつかの解説がウェブにアップされている。専門的な楽曲分析、「正しい」コンセプト(概念)の理解についてはそちらで。
- ヘリコプター弦楽四重奏曲 [シュトックハウゼン音楽情報 日本語版]
- HELICOPTER STRING QUARTET (1992/93) [Stockhausen Official Site]
- ≪ヘリコプター弦楽四重奏曲≫の楽譜
- 初演で「共演」したオランダ王国空軍のアルーエッテ・ヘリコプター「グラスホッパー」(The Grasshopper Helicopter)の写真。
[Royal Netherlands Air Force(RNLAF)]
また、より精緻な楽曲分析として、ヘリコプターについての<知識>も必要となるかもしれない。参考書籍としてブルーバックスから出ている鈴木英夫『図解 ヘリコプター―メカニズムと操縦法』を紹介しておこう。
- 作者:鈴木 英夫
- 発売日: 2001/10/19
- メディア: 新書
そしてシュミレーションを兼ねて以下の商品で ”play ”すれば万全だ。
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[Licht、The Seven Days of the Week]
Wednesday
Mittwoch is characterized by the cooperation of Eve, Michael and Lucifer. This complex piece, written between 1992 and 1998, is comprised of four scenes: Welt-Parlament (World Parliament), Orchester-Finalisten (Orchestra Finalists), Helikopter-Streichquartett (Helicopter String Quartet)—which is a piece, as the name implies, for four stringed instruments and four helicopters, the latter used both as a performatic device and as a sound source—and Michaelion. The greeting for Mittwoch is the electronic part of scene 4, and the farewell is the electronic music from scene 2.
ジーモン・シュトックハウゼン、アントニオ・ペレス・アベランなどのシンセサイザー奏者とのコラボレーションによる電子音響の効果も絶大で、キューブ状に配置した8つのスピーカーから再生される音響が文字通り上下左右に動き回る電子音楽「オクトフォニー」(火曜日)など、テクノ系のファンにアピールする作品も少なくない。4台のヘリコプターを使った「ヘリコプター弦楽四重奏曲」(水曜日)、2つのホールでの演奏を衛星中継で同期させながら5つの異なるテンポで同時に演奏される「ホーホ・ツァイテン」(日曜日)など、果敢に伝統的な演奏習慣に挑戦する姿勢も健在である。
それぞれのヘリコプターに一人ずつ奏者が乗り込み、ヘリコプターの中で演奏する。これらのヘリコプターはコンサートホール(など)の周りを旋回し、その中で各々の奏者が演奏し、その音と映像をコンサートホールに中継する。すると、楽器の音とヘリコプターのプロペラの音が程よく絡み合い、筆舌に尽くせないほどの感動を聴衆に与えるという。
ヘリコプター4台を動員し、空中から音楽を中継するなどという、大それた(むしろ常軌を逸した)曲の割には演奏の機会に恵まれており、これまでに数回演奏されている。実際に聞いた人の中には、「想像していたよりも普通の曲だった」という感想を持つ者も多い。
(中略)
アーヴィン・アルディッティは「自分の弾く音が全く聞こえない不思議な体験」をしたと言った。この体験から、「演奏者自身は自分の発する音が全く聞こえなくても、音楽表現は成立するのか」といった新たな問いが出されている。
ところで、この「自分の発する音が聞こえない」状況・現象というのは、とても重要なポイントなのではないか。作曲者が万全の体制で制御する演奏技術、音響技術的な面よりも、演奏者が体験した偶発的?な出来事に興味を惹く。
充実した現前性は、意-識〔共-知識〕における<自己自身の絶対的現前性>としての無限性を使命としているのだから、絶対知の成就は、無限の──差延(デイフェランス)なき声の中では、概念とロゴスと意識の統一体でしかありえない無限の──終焉なのである。
形而上学の歴史は、絶対的な<自分が語るのを-聞き-たい>ということである。この無限の絶対が、それ自身の死として立ち現れるとき、この歴史は閉じられる。差延なき声、エクリチュールなき声は、絶対的に生きていると同時に絶対的に死んでいる。
そのとき絶対知の「彼方で」「始まる」もののために、古い記号の記憶を通して自分を探し求めている前代未聞の思想が要請される。
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