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ハープとコンピューターによる『B級映画』



ハープが印象的な曲というと、モーリス・ラヴェルの《序奏とアレグロ》やクロード・ドビュッシーの《フルート、ヴィオラ、ハープのためのソナタ》の優雅な……ではなくて、なんといってもアンドレ・カプレの《赤き死の仮面》(Le Masque de la mort rouge)──エドガー・アラン・ポーの同名小説に基づく、ハープと弦楽合奏のための音楽を、まず挙げたい。優美なイメージを持つハープが、このカプレの作品では、ポーの恐怖小説さながら「良い味」(taste for death)を出している。
そんなテイスト全開のCDを見つけた。『Harp & Computer - Electroacoustic Music From DIEM III』。デンマークの現代音楽作曲家によるハープに電子音響を使用した作品集で、ハープ奏者ソフィア・アスンシオン・クラーロ/Sofia Asuncion Claro に捧げられたもの。演奏はもちろん、ソフィアさんだ。


収録曲は以下。デンマークの人の読み方はわからないので、原語のままで。

  • Ejnar Kanding : 『Entbergen』 (1997)
  • Lars Graugaard : 『Incrustations』 (1994)
  • Sunleif Rasmussen : 『The Song of a Child』 (1997)
  • Ivar Frounberg : 『Worlds Apart』 (1993)
  • Fuzzy : 『B-Movies』 (1997)

DIEM(Danish Institute of Electronic Music)という──フランスで言えば IRCAM のような──デンマーク電子音楽研究所で、このアルバムは製作されている。
[DIEM]


最初の Ejnar Kanding は1965年生まれの作曲家で IRCAM で学んだ経歴を持つ。IRCAM 関係者らしく、「現代音楽らしい」響きを十分に味わえる。ここでのハープは煌びやかなグリッサンドを掻き鳴らすのではなく、ポツポツとした「点」を聴かせる──ウェーベルンのように。そこに合成された「人間の声」が絡む。タイトルの『Entbergen』はマルティン・ハイデガー『芸術作品の根源』に由来する。

Lars Graugaard(b.1957)は、いかにも電子音楽らしい音響を響かせる。そう、シュトックハウゼンの初期作品のような「レトロな」感じ。しかしこのレトロな電子音響こそがたまらない。ハープも技巧的なパッセージを聴かせる。

英語のタイトルを持つ Sunleif Rasmussen(b.1961)の 『The Song of a Child』は、アメリカの詩人ウォルト・ホイットマンの『ぼく自身の歌』にインスパイアされたものだ。最初はロマンティックな感じなのだが、やがて「声」が乱入し、古い特撮映画の宇宙空間で流れるようなサーッという電子音が混ざり、まさしくアヴァンギャルドな音楽になる。この曲もシュトックハウゼン、とりわけ『少年の歌』を彷彿させるゴキゲンなテイストだ。


Ivar Frounberg(b.1950) の『Worlds Apart』は「5つの異なった世界」が繰り広げられる、というコンセプトを持つ。といっても極めて抽象的な「音の世界」なのだが。しかもこの曲には不思議な素材が使われている──解説によれば、なんでも「フランス語を話すジョン・ケージ」という素材なのだという。ふうん。


そして最後の Fuzzy(b.1939)による『B-Movies』。 Fuzzy はリゲティシュトックハウゼンに学んだ人物で、なるほど『B-Movies』は現代音楽にありがちなショッキングな一撃から始まる。それが……あざとく盛りあがる。B級映画のノリ、というか、それがタイトルなのだ。
曲は次のような部分からなる。

  1. 「コウモリのいる墓地」(Cemetery with the Bats)
  2. 「サスペンス」(Suspence)
  3. 「ソフィア(ハープ奏者のことね)、巨大なカエルに遭遇する」(Sofia Meets the Giant Frog)
  4. 「鏡の家からの脱出」(Escape in the House of Mirrors)
  5. 「もはや後戻りできない段階、マンガ的状況だ」(Point of No Return and Cartoon)。

まさしくB級映画のノリ。凄く楽しい! 最高に面白い! こういう作品に出会えるから、たとえ当たり外れが多くても、現代音楽漁りはやめられない──もはや後戻りできない。




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