傑作。今年のベスト級。レンタルで観たのだがDVDを買いたくなった。そして友人知人に薦めたい。僕はこういう素晴らしい映画が製作されるアメリカを嫌いになることは決してないだろう。
舞台はニューヨークのイタリアン・レストラン『ジジーノ』。物語はそのレストランの「ある夜」の出来事を群像劇風に描いている。まさに舞台劇のような趣向で、つまりプロローグ以外は、映画で流れる時間と、この映画を観ている観客の時間は一致している──共有している。
『ジジーノ』は、オーナーの息子のウードが野心的な新機軸のメニューを打ち出し大繁盛していた。しかしウードの父親ルイは、必ずしも息子のヌーヴェル・キュイジーン路線に満足していない。むしろアシスタントのシェフ、ダンカンの料理の腕前を買っていた。しかしダンカンは大のギャンブル好きで、多額の借金を負っている。
そして「その夜」、ダンカンの借金返済を迫り、かつ、レストランを乗っ取ろうと二人組みのギャングが店に乗り込んできた。ギャングはルイの親友を殺していた……。
監督はMTVやCMを数多く製作している人で、テンポの良い時間の流れはさすがだと思う。さらにその躍動的なリズムを崩さず、なおかつ様々な音色のドラマが響き渡る脚本──個性的なシェフやスタッフ、そして個性的な客、停電のアクシデント、2分間のセックス、そして衝撃のラストまで緻密に──音楽的に──計算され尽くしている。
また、厨房はまさしく戦場で、そこで腕を競う男たちは凛々しく美しい。料理もとても美味そう。超インテリのバーテンダーと客とのやり取りも見事。停電でキャンドルを灯すところもあざといくらいロマンティック。ギャラントな音楽も良い。いちおうサスペンスドラマで人も殺されるが、ハートウォーミングというか、観ていて幸福な気分にさせてくれる映画だ。
[大場正明氏のプレス評 ]
http://c-cross.cside2.com/html/a10te002.htm