HODGE'S PARROT

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『ペダル・ドゥース』 PEDALE DOUCE/1996/フランス 監督ガブリエル・アギヨン

こんな賑やかで楽しい映画は、是非、ジェンダーセクシュアリティなんていう「色眼鏡」を外して観ていただきたい。とにかくストーリー良し、音楽良し、コメディ・センス良し、そして男のセンス良し、と言うことなし!

ビジネスエリートのアドリアンはゲイ。しかし彼はゲイ・クラブを経営する女性オーナー、エヴァに友情以上のものを感じている。ある日、商談のため、有力銀行頭取の夕食会にアドリアンエヴァは「夫婦として」参加。ここでエヴァは、持ち前の気風の良さと気の強さで一悶着起す。しかし頭取のアレクサンドルはそんなエヴァに惚れてしまう。
やがてアレクサンドルは、アドリアンがゲイであること、エヴァアドリアンの妻ではなくゲイ・クラブのオーナーであること、そしてそこの常連に堅物だと思っていた彼の部下が出入りして「本当の自分」を曝け出していることを知る。もちろんガチガチの異性愛者で保守的なアレクサンドルである。彼にとってゲイの世界は戦々恐々としたものであることは否めない。しかしエヴァへの愛が彼を変える。

そんな中、アレクサンドルの妻マリーが偶然エヴァが経営するゲイ・クラブを訪れ、そこで夫が男性と親しそうにしているのを目撃してしまったので、さあ大変。夫はゲイ? とまた一悶着起きる……。

この映画はフランスで大人気を博したというとで、たしかに単なる「同性愛映画」の範疇を超えている。というより、もしかしてこれは「異性愛映画」と呼んだ方が相応しいのかもしれない。つまり、周りが「異性愛者」ばかりであるときに、「同性愛者」の存在が際立つように、「同性愛者」が「普通に、そして大勢を占める」夜のとあるパリでは、「異性愛者」の恋愛が独特のアクセントになって独特の印象を残す。
さらにこの映画を良く観ると、メインキャストはみんな「中年」で、ゲイ/ストレートを問わず、フランス産の洗練された「大人のラヴ・コメ」を観ているような気になってくる。「人間喜劇」の伝統が窺える作品だ。

個人的にはアンドレジャック・ガンブランの演技に魅了された──共感した。なんといっても彼は、件のゲイ・クラブで、スーツを脱ぎ捨てるストリップをやってしまうのだから。これは仕事終了→ハッテン場直行→スーツから全裸へという「経験」を持つ人にはたまらないシチュエーションだろう。
「豹変」する自分/「自分」の豹変を「意識」することは、この上もなくエロティックなシチュエーションなのだ。