HODGE'S PARROT

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『海をみる』 Regarde la mer/1997/フランス 監督フランソワ・オゾン

英語のタイトルは "See the Sea" 。海のイメージを美しく捉えたこの作品に相応しい。もちろんフランス語の原題 "Regarde la mer" も、美しい響きを持っている。しかもどこか幻想的で神秘的なニュアンスを感じる。それはこの "Regarde" という言葉を聞くと、僕は、オリヴィエ・メシアンピアノ曲『幼子イエスへの20のまなざし』(Vingt Regarde sur l'Enfant - Jesus)を思い浮べるからだ。
もっとも、この映画における幼児への「まなざし」は、異様で狂気を帯びたものであるが。

ストーリーは、父親が不在のある家庭──母親と幼児の二人だけ──に、バックパッカーの女(タチアナ)が庭にテントを張らせて欲しいと訪れる。母親は了承する。しかしタチアナの振舞いは奇妙で常軌を逸したものだった。やがて……。

……という、緊張感漲るサスペンスフルな映画。このテイストはまさしくノワールだ。オゾンは、他の作品でもそうだが、ミステリーの要素を自家薬籠のものとしている。多分セリ・ノワール叢書あたりの熱心なファンなのだろう。もっとも、だからこそ、ミステリーやサスペンス小説のファンならこの結末はおよそ予想がつくかもしれない。
が、しかし「ここまでやるか!」というショッキングな、思いっきり神経を逆撫でするような映像の連続が待っていることを忘れてはならない。なんといってもフランソワ・オゾンである。その映像に唖然とさせられ、思わず”Shit!”と叫びたくなる──それこそがオゾン映画の真骨頂であり、とびきりの猛毒にしてやられる。

まずは女のオナニー・シーン。ま、これは、(僕はもちろん観ないが)ストレート男性用ポルノでは当たり前のようであるし、一般の映画でもときたまある(リンチの『マルホランド・ドライヴ』にもあった)。次に、女の覗き。ゲイのオゾンならではで、林にあるゲイのハッテン場に女が入り、男同士のセックスを覗くというもの(フェラチオの「音」がリアルに聞える、さすがだ)。これもまあ笑って済ませるところではある。
しかし、しかし女の排泄シーンとその後の「歯ブラシ」のシーンは、さすがの僕もぶっとんだ。まさしく”Shit!”と声が漏れた。パゾリーニも凄かったがオゾンも素晴らしくエグイ。

しかもそういったグロテスクな映像に、この上もなく美しい海の映像と幼児に対する不可思議な「まなざし」──まるでマリアとイエスのパロディのような──がかぶさる。いまさらアモラルと言うのも遅きに失する感じの強烈な作品だ。