HODGE'S PARROT

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『青い夢の女』 Mortel transfert /2000/フランス、ドイツ 監督ジャン=ジャック・ベネックス

同じジャン=ジャック・ベネックスの話題作『ディーバ』や『ベティー・ブルー』よりも、この『青い夢の女』を僕が買うのは、やはりそのミステリー仕立ての凝った設定と強烈なブラック・コメディゆえにだ。オープニングのチェンバロヴィオールを使用した印象的な擬・古楽的音楽から予想される、グルーウなサイコ・サスペンスに背筋を凍らせられるどころか、何度も何度も笑わせられた。そうだな、ヒッチコックの『めまい』を観るつもりが、実際観たのは『ハリーの災難』だったような感じ。

ストーリーは、精神分析を受けていた患者が、治療が終わると死んでいた、というもの。じゃあ、殺したのは治療をしていた医者なのか……実はその精神分析医にもわからない。なので、彼は、別の精神分析医に彼の分析を依頼し、その事件を再構成していく。まあフィルム・ノワールのパロディというもので、マゾヒストのミョーな女と関わりを持ったために、これまたミョーな事件に巻き込まれていく男の「災難」を意地悪く描いている。「もしかして自分が殺したのかもしれない」女の死体をいかに処理するか、というのがご機嫌なサスペンスになっている。

だいたい鬱病気味の精神分析医が別の精神分析医に治療を受けながら、事の真相を分析していく、という構成がブラックで捻くれている。さらにこれにスラヴォイ・ジジェクの場外乱闘を期待したいところだ。

──そういえばジジェクは「ノワール」を三つの型に分類していて、一つがハードボイルド探偵ノワール(ハメット-チャンドラー形式)。二つ目が「迫害される無実の傍観者」ノワールコーネル・ウールリッチ形式)、三つ目が「おめでたいカモが犯罪に巻きこまれる」ノワール(ジェームズ・ケイン形式)。この『青い夢の女』はさしずめ3番目の「ノワール」だろうか──。

もちろんスタンリイ・エリンの『鏡よ、鏡』のように様々な性的なモチーフが伏線となって、猥雑でありながらも、しっかりと謎解きがされているところにも好感が持てる。さらにジョークは抜群に決まっているし、主人公の愛すべき患者たちもそれぞれ魅力的な症例持ちであるし(同僚から盗んだ金をねけねけと治療代として払う女教師!)。

そしてこの上もなく優美な映像。青を基調にした玲瓏さ、不穏に明滅する赤や黄色や緑。主人公の記憶の溶解/再生がそのまま映像の色彩を侵食/構成していき、絶妙な緊張感を催させる。ため息が出るほど美しい。