ネイサン・レオポルドとリチャード・ローブの事件をテーマにしたトム・ケイリン監督の『Swoon/恍惚』は、僕の大好きな映画の一つで、そのモノクロの映像を見るたびに、まるでトラウマのように心揺り動かされる……と以前も書いたが、その『Swoon』のトレイラーが YouTube に「復活」した。今度は配給側がアップしているようなので、しばらくの間、見続けることができるだろう。
Swoon - Trailer
それと、これまでも何度か紹介してきたが、『Swoon』というゲイ・ムーヴィと Pulp の《This Is Hardcore》*1という音楽を組み合わせてできた素晴らしい芸術── This is ART ──も、再び。この映像と音楽の融合=結婚に、僕は、Pulp 自身が製作したミュージックビデオ──フィルムノワールを模したPV以上に「ゆゆしき均斉」(thy fearful symmetry)を感じる*2。こちらはいつ消えてしまうかわからないが、それまでの間、楽興の時を。
Swoon (1992) Vid - This Is Hardcore
エクスターシスは、本来、常に完全な孤独である。なぜなら、それは──あらゆる半分割状態 Hälftenhaftigkeit を脱して──それ自体のうちに補完極を含んでいる完全な成就の状態だからだ。またエロース的陶酔のガモス〔結婚〕は内部的ガモス、もしくは世界にまで拡張された、それゆえ生みつけ且つ受胎する或る性情(ヴェーゼン)〔本質〕の自己生殖である。……。したがって、どんなエクスターゼもそれ自体としてはパーティッシュ〔受苦的〕というより、むしろイディオパーティッシュ〔固有受苦的=独感的〕な性質を帯びている。
ルードヴィッヒ・クラーゲス/Ludwig Klages『宇宙生成的エロース』(田島正行 訳、うぶすな書院) p.61 *3
Swoon (1992) Daniel Schlachet as Richard Loeb Craig Chester as Nathan Leopold Jr. |
ところで、このレオポルドとロープによる「完全犯罪」(Perfect crime)を目論んだ事件は、『Swoon』やヒッチコックの『ロープ』を始めとする映画だけではなくミュージカルにもなっている。それが『Thrill Me: The Leopold & Loeb Story』だ。
[Thrill Me]
Thrill Me: Leopold & Loeb Story
- アーティスト: Cast Recording
- 出版社/メーカー: Original Cast Record
- 発売日: 2006/08/08
- メディア: CD
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これも YouTube にいくつかアップされていた。
Thrill Me: The Leopold and Loeb Story NJ Premiere
しかも韓国版もあった。これが……素晴らしかった。クールで、美しく、力強く、セクシーで。
Thrill Me - The Leopold & Loeb Story(2007 Korean cast)
Thrill Me - The Leopold & Loeb Story(2007 Korean cast)
一部分だけなのだが、この韓国語によるミュージカルは本当に僕の心を揺り動かして(thrill me)くれる。キャストも最高。全編を、できれば日本語の字幕付きで、観たい。
[Thrill Me Korean version]
エロース的に完成した陶酔は、イディオパーティッシュ〔固有受苦的=独感的〕なものではなく、例外なくズュンパテーティッシュ〔共有受苦的=共感的〕なものである。
したがってどの陶酔も、その内実がズュンパテーティッシュなものである限り、まさしくエロース的陶酔の特殊性に与っている。われわれはズュンパテーティッシュな激昂をもっぱらどのようなものとして理解しなくてはならないか。一つの生きもの(ヴェーゼン)の激昂に、少なくとも第二の生きもの(ヴェーゼン)の昂奮との共有が含まれていること、これがその答えである。
例えば、同じ機縁から憤怒を感じているばかりではなく、同時にまたその怒りの共有を通じて結ばれ、まさしくそこから憤怒のパトス〔受苦=激情〕を得ている二人の人間は、ズュンパテーティッシュに昂奮している。ズュンパテーティッシュな関係にときに踏み込むことのないような、いかなる人間的感情も存在しないのかもしれない。
L.クラーゲス『宇宙生成的エロース』 p.64-65
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*1:このイギリスのバンド、パルプ/Pulp の《This Is Hardcore》もとても気に入っている。普段はクラシック音楽──あるいは「シリアスな」音楽と言ったほうが良いのだろうか──の情報しかキャッチしていないので、この《Swoon》の映像とミックスさせたビデオに出会わなかったら、その存在さえも知らなかったと思う。
*2:フィルム・ノワールと音楽といえば、フランスの現代音楽作曲家ピエール・ジョドロフスキ/Pierre Jodlowski による《セリ・ノワール:スリラー Série Noire : Thriller》が印象的だった。必聴。→ http://d.hatena.ne.jp/HODGE/20080713/p1
*3: