ゲイ・シネマのランドマークといわれる、ケネス・アンガー(Kenneth Anger、b.1927)による1947年の「実験的な」作品、『花火』(Fireworks)の映像が YouTube にあった。
Fireworks (1947 by Kenneth Anger) - Part 1
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本棚をちょっと整理していたら、『夜想』のバックナンバーが出てきて、そこにカレル・ロウのアンガー論『啓明のルシファー』があった。何気に開いて読んでみたらとても興味を惹いたのだった。
ロマン主義的な理想化、詩的な皮肉、豊富な異国趣味と、全体が部分に従属する反古典主義的モンタージュの展開はすべて、アンガーと世紀末フランス文学(1951年に彼はロートレアモンの『マルドロールの歌』を映画化しようとした)との類縁を反映するものである。彼がデカダン的象徴主義者の形象を最も夥しく使用したのは、『快楽殿の落成式』*1においてであった。しかし、『スコピオ・ライジング』程に、ユイスマンスの推敲された統語的構造に近似したモンダージュ配置の展開と、デュカス(Isidore-Lucien Ducasse、ロートレアモンの本名)風な混喩の曖昧さとが、明白なものは他に類を見ない。
『スコピオ・ライジング』は自己喜悦が自己犠牲へと敷衍する。〈マシーン〉(ここではモーターサイクル)が力のための道具にトーテム化される。そして、「戦車を駆ける者」は〈死〉(ロマン主義的な尺度によれば「夢の恋人」)である。暴力が入格の詩的拡大にとって代わり、暴力的なエロティシズムはハイウェイ・ヒーロー(「最後のカウボーイ達」)の悲劇的な死に伴う。
「『スコピオ・ライジング』はひとつの機械であり、ケネス・アンガーは点火プラグをAC(アレイスター・クロウリー*2)電流で点火し続ける…私が十年前、どちらを愛したか解かるだろうか?……それはクロムだったか、奴だったかのか?」
この引用した部分は主に『スコピオ・ライジング』(Scorpio Rising)について書かれているが、『花火』にも通じるだろう。『Fireworks』の「Part 2」──まあ、リンクしなくてもいいだろう──を見ると、「内臓」を抉じ開けられた男に白い液体が掛けられ、その男は傷を負いながらも喜悦の表情を浮かべる、そして花火が「例の場所」から火を噴く……まさに1940年代のアヴァンギャルド芸術という感じである。単純なことをあえて難解な「言い回し」で表現しているような。
*3
音楽がレスピーギの《ローマの祭り》──ネロ帝が催したチルチェンセス/Circenses という「民衆の祭り」が使用されており、これは捕虜(主にキリスト教徒)が猛獣に喰い殺されるのを「見物する」祭りである──や《ローマの松》というのも、奮っている。
新しい永劫(アイオーン)は『スコピオ(天蠍宮)』の「夜」から『ルシファー』の「暁」へと変化することによって達成される。バイクのラリーに重ね焼きされて翻る髑髏印は肉欲の死を意味し、フリー・メイソン、あるいは薔薇十字軍の旗上における死の支配者が、人間の感覚的個性の哲学的な死──人間の霊性を解放する過程で不可欠とされる移行期──を表わすのと全く同様である。
(『スコピオ・ライジング』の)映画の最終ショットは、パトロール・カーの赤い点滅によって照らされる死んだスコピオ(さそり)の差し伸ばされた腕であり、その上には「幸いなるかな、幸いなるかな、忘却よ」という入れ墨が彫られている。
『啓明のルシファー』 p.33-34
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*1:Inauguration of the Pleasure Dome。”Pleasure Dome”はイギリスのロマン派の詩人サミュエル・テイラー・コールリッジの『クーブラカーン』(Kubla Khan)からきている。もちろん、あのフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド/Frankie Goes To Hollywood の『Welcome To The Pleasuredome』もコールリッジと関係がある。
*2:カレル・ロウによればクロウリーは「魔術のオスカー・ワイルド」と呼ばれ、自らは「獣666」と称したという。コリン・ウィルソンの『ジェラルド・ソームの性日記』、サマセット・モームの『魔術師』のモデルにもなった。
*3:”Moonchild: The Films of Kenneth Anger” by Jack Hunter / http://www.amazon.com/dp/1840680296/