HODGE'S PARROT

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『ピンクナルシス』レイトショー

あの伝説のゲイ・ムービー『ピンクナルシス』(PINK NARCISSUS、1971年アメリカ)が、7月29日(土)〜8月25日(金)まで、シアターN渋谷でレイトショーされる。


タワーレコードの『yes』VOL.3の紹介記事でも言及しているように、ピエール&ジル(Pierre et Gilles)を思わす鮮烈な色彩と幻想性、エロティック/エキゾチックなイメージの奔流──闘牛士古代ローマの奴隷、孔雀、ギリシャ神話の牧神──に魅了される。
あまりにも官能的、あまりにも耽美的、あまりにも詩的だ。

狩猟と暑さで疲れ切った少年は、ここに身を投げ出した。あたりのたたずまいと、泉とにひかれてやって来たのだ。渇きを静めようとしていると、別の渇きが頭をもたげた。水を飲んでいるうちに、泉に映った自分の姿に魅せられて、実体のないあこがれを恋した。影でしかないものを、実体と思いこんだ。
みずからがみずからの美しさに呆然として、パロス産の大理石で作られた像のように、身じろぎもせず、同じ表情を続けていた。地面にうつぶせになって、ふたつの星のような自分の目を見つめる。バッコスやアポロンにもふさわしい髪を、うら若い頬を、象牙のような頸を、きれいな顔を、雪のように白さにほんのりと赤みをまじえた肌の色を、眺める。
何もかもに感嘆するのだが、それらのものこそ、彼自身を感嘆すべきものにしている当のものだ。不覚にも、彼はみずからに恋い焦がれる。相手をたたえているつもりで、そのじつ、たたえられているのはみずからだ。求めていながら、求められ、たきつけていながら、同時に燃えている。




オウィディウス『変身物語』(中村善也 訳、岩波文庫)p.116-117


かつて『ピンクナルシス』は、監督・製作者とも「匿名」であった。が、現在ではジェイムズ・ビドグッド(James Bidgood)が監督・製作したことが知られている。ビドグッドは当時同居していた愛人/ハスラー、ボビー・ケンダル(Bobby Kendal)のエロティシズムを、極限にまで映像化した。ムソルグスキーなどのクラシック音楽も印象的に使われている。

美と崇高の彼方への "Sensual Odyssey" 。『ピンクナルシス』を観る者は鏡の中の「狙った獣/狙われた獣」(Beast in view)と化す。

幾度となくドリアンはこの幻想的な一章と、すぐそれにつづく二章を読みふけったが、そこには、「悪徳」と「血」と「倦怠」から怪異もしくは狂気と化したひとびとの恐るべくも美しい姿が、珍奇なつづれ織りか精巧な七宝にでも描かれた絵のように、表現されていた。


(中略)


これらのひとびとにはいずれも恐るべき魅力があった。かれらは夜はドリアンの前に現われ、昼はかれの想像を悩ますのだった。文芸復興は奇怪な毒殺法を知っていた──冑や火をつけた松明で、刺繍した手袋や宝石つきの扇で、金をかぶせた香丸入れや琥珀の鎖による毒殺法を。
ドリアン・グレイは一冊の本によって毒殺されてしまったのである。かれには悪というものを単に自己の審美感を実現しうる一様式にすぎぬと考える瞬間がしばしばあった。




オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』(西村孝次 訳、岩波文庫)p.241-242


PINK NARCISSUS/THE QUEER REVERIES OF JAMES BIDGOOD [Seattle Queerfilm]

In 1971, PINK NARCISSUS rocked the underground film world with its dreamlike homoerotic images. A technicolor fantasia, it is the story of a beautiful, brooding hustler (the lovely Bobby Kendal), who creates a dream world inside his apartment where he acts out his fantasies, from harem boy to roman slave to matador. A major cult classic, PINK NARCISSUS has continued to screen to sold-out audiences around the world.


PINK NARCISSUS' writer and director was credited as "Anonymous," and rumors flew that the film had been made by a big name in Hollywood who feared exposure. It was later revealed that director James Bidgood, a physique photographer, had taken his name off the film because he did not like what the distributor had done with his work. QUEER REVERIES OF JAMES BIDGOOD chronicles the course of Bidgood's life from small town outcast to respected artist.


[ピンクナルシス関連]

ジャン・コクトージャン・ジュネケネス・アンガーに影響を受けていることがうかがえるアヴァンギャルドな映画。製作された1971年よりも近年になって再発見され、評価を受けた。

The men are beautiful. This is a dreamscape, one that riffs heavily on porn but also rides the last vestiges of '60s experimental filmmaking, in particular the work of Kenneth Anger. One sequence has Kendall (quite literally) making love to the earth. Seen as one with nature, our carnal hero is also seen at home in the big city, cruising all sorts of types on a self-consciously fake-looking city street.


This is such a gay movie (in the best sense of the word). The erotic is mixed with equal parts humour, Kendall is captured in all his bubble-butt glory, and the set and costume design look like the bizarre collaboration of Fritz Lang and Liberace.

実は YouTube でも一部が見られのだが、なにしろ男性器がしっかりと映っているので……リンクはしない。