HODGE'S PARROT

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ブーレーズのバルトークと Alfons Holtgreve



ピエール・ブーレーズ指揮、シカゴ交響楽団によるベラ・バルトークの一連の録音を聴いている。

バルトーク:管弦楽のための協奏曲

バルトーク:管弦楽のための協奏曲

バルトーク : 弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 / 中国の不思議な役人

バルトーク : 弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽 / 中国の不思議な役人

バルトーク:ディヴェルティメント

バルトーク:ディヴェルティメント

Wooden Prince

Wooden Prince



管弦楽のための協奏曲》や《中国の不思議な役人》といったオーケストラの持つ機能を最大限に引き出した作品や、バレエ音楽《かかし王子(木製の王子)》、オペラ《青ひげ公の城》も聴き応えがあるのだが、個人的には、通称「弦チェレ」と呼ばれる《弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽》が一番好きだ。

なんと言ってもそのシンプルかつ冷厳なタイトル。弦楽器、打楽器、チェレスタだけで成り立っている音楽──そのままである。「オケ・コン」もそうだが、標題音楽の持つイメージとやらを完膚なきまでに排した、恐ろしいまでの抽象性。しかし「オケ・コン」が、作曲者がアメリカに渡った後の、ちょっと「柔和」になった──まるでアメリカの聴衆を意識したかのような──聴きやすさを持った作風であるのに対し、「弦チェレ」は斬新な響きと挑発的・実験的・野心的な語法に満ち満ちている。
弦の蠢きに、打楽器がドカドカと叩かれ、チェレスタの高音が煌く。調和というよりも、いかにそれぞれの楽器の特性が異なっているのか、その強烈で鮮烈で激烈な響きが知らしめてくれる(もちろんそこで表出される「野蛮さ」は、至高の「理性」の名において成されるものだ。だから「徹底的に野蛮」なのだ。)
ただ、個人的に、この抽象的な音楽には、どうしても「不気味なイメージ」に囚われてしまうところがある。薄気味悪い映像が見えてしまう。というのも、この《弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽》は、スティーヴン・キング原作、スタンリー・キューブリック監督のホラー映画『シャイニング』で使用されたからだ。

シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン [DVD]

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[The Shining (1980)]


これは怖かった。もしかすると僕にとって最も恐怖を感じた映画はこれかもしれない。



そして音楽の「恐怖感」では、ブーレーズの録音に関しては、シカゴ響における精緻な新録よりもBBC交響楽団との旧録のほうが、その攻撃性と緊迫感において、勝っているかもしれない。弦のささくれ立った響きに、チェレスタの硬質な音がかなり強調されており、異様なまでの戦慄を帯びる。併録のスクリャービン《法悦の詩》も、末端肥大的なアプローチが妖しく、したがってこの上もなく魅力的だ。


Wooden Prince / Le Poeme De L'Extase

Wooden Prince / Le Poeme De L'Extase




ところでブーレーズの DG の CD であるが、ジャケットカバーのイラストが、楽曲/演奏と同様、非常に鮮烈で目を引く。 Alfons Holtgreve という名前がクレジットされていた。それでこの人についてネットで探したのだが、あまりこれといった情報が見つからなかった。

いちおう以下でいくつかの作品が閲覧できるようだ。


このサイト、他にも興味をそそる「不思議な」イラストが多く掲載されている。

Amazon で検索したら、シュテファン・ツヴァイクの『Schachnovelle』*1という作品に Alfons Holtgreve の名前が記されていて、そのカヴァーを見るとこの人の絵だとわかる。

Schachnovelle

Schachnovelle

*1:邦題は『チェスの話』で、みすず書房ツヴァイク全集3『目に見えないコレクション』に所収。英題は『The Royal Game』で映画化もされているようだ。
http://www.imdb.com/title/tt0054272/