HODGE'S PARROT

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楽しみを希う心 マイケル・ナイマンのピアノ協奏曲



Piano Concerto / Where the Bee Dances

Piano Concerto / Where the Bee Dances


言葉を話すことができない女性がピアノを弾くことで自分を表現する。ジェーン・カンピオン監督の『ピアノ・レッスン』(The Piano)は、とても印象的な映画であった。
その音楽を担当したのが、イギリスの作曲家マイケル・ナイマンMichael Nyman, b.1944)で、このCDでは映画のサウンド・トラックをピアノ協奏曲に再構成したものが演奏されている。カップリングは、ピーター・グリーナウェイ監督の『プロスペローの本』の音楽を元にした《蜜蜂が踊る場所》だ。

演奏は、ジョン・レネハン(ピアノ)、シモン・ハラーム(サクスフォーン)、湯浅卓雄 指揮アルスター管弦楽団北アイルランドベルファストにあるアルスターホールで録音。



多分、ほとんどの人がこの音楽を知っているのではないかと思う。久しぶりに聴いてみたい人は、YouTube で。
→ The Sacrifice (Michael Nyman)



で、いちおうこの《犠牲》の楽譜を持っているのだが、これを見ると、非常にシンプルに書かれていることに驚く。両手の「単純な」アルペジオイ短調)にメロディがかぶさるだけなのだ。ただ、拍子が12/8、9/8、6/8、12/8 と流れるように変化する。その反復。これだけで──その単純な「操作」だけで、微妙な心の動きを捉える。これこそが「ミニマル・ミュージック」と言えるだろう。



ピアノ協奏曲では、もう少し複雑で、構成感があり、ピアニスティックな効果も発揮される。音楽自体に「ドラマ」がある。《犠牲》のメロディが終楽章で回帰し、力強く奏されるところを聴くと、映画とは別の感動というか、音楽的感興を与えてくれる。


ピアノ・レッスン』では、言葉が話せない──言葉なしのコミュニケーションに音楽が大きな役割を果たしていたが、《蜜蜂が踊る場所》も似たような意味合いがある。やはり言葉なしのコミュニケーションだ。
《蜜蜂が踊る場所》というタイトルは、CDの解説によると、「蜜蜂が蜜を探し当てたとき、仲間にそのありかを知らせるために旋回をしながらダンスをする」という含意なのだそうだ。軽快な、羽音のように弦。そしてサックスのソロが心地よく鳴り響く。

エアリアル(歌う)


 蜜蜂の吸う蜜吸って、
 九輪桜の花に寝て、
 夜、フクロウの声聞いて、
 コウモリの背に飛び乗って、
 楽しく、夏のあと追って、
 楽しく、時をすごしましょう、
 花を仰いで暮らしましょう。





シェイクスピアテンペスト』(小田島雄志 訳、白水社) p.139-140