HODGE'S PARROT

はてなダイアリーから移行しました。まだ未整理中。

ティボーデのシューマン&ブラームス



ユニバーサル・クラシックスのサイトに「世界で最もエイレガンスなフランス人ピアニスト」(ママ、アクセントに忠実)なんて書かれてあるのを見ると、ロベルト・シューマンヨハネス・ブラームスは「エレガンス」とはちょっと違うかな、と思ってスルーしていたジャン=イヴ・ティボーデ/Jean-Yves Thibaudet の「ドイツもの」。豪 DECCA から ELOQUENCE シリーズの廉価盤が出ていたので、聴いてみた。

Schumann/Brahms;Arabesque/E

Schumann/Brahms;Arabesque/E


グッジョブ。とくにシューマンの≪交響的練習曲≫Op.13。さすが技巧派ピアニストだけあって、テクニックの洗練されていること。速めのテンポで、ピアノをクリアーに響かせつつ、華やかに盛り上げていく。
そして≪交響的練習曲≫と言えば、どの版、または「遺作」の取り扱いに興味がわく。ティボーデは、1861年版(1852年版で省かれた第3曲と第9曲の練習曲を追加)を採用*1、まず一気呵成に弾く。そしてあの「躁な」フィナーレの後に、1873年ブラームスにより出版*2された「遺作」をエコーのように情感豊かに弾いて、このアルバムを終わらせる。


ブラームスの≪パガニーニの主題による変奏曲≫Op.35も秀逸な演奏だ。この曲に関しては、エフゲニー・キーシンのCDを聴いたときのインパクトがあまりにも強烈すぎて、どうしてもそれと比較してしまうのだけど、ティボーデもなかなか聴かせてくれる。
キーシンが第1、2集合わせて23分37秒、一方、ティボーデは第1集12分43秒、第2集9分41秒なので、スピードに関しては、両者には開きはない。キーシンの演奏には確かに唖然とさせられるが、ディボーデのクールにピアノを響かせる冴え冴えしさは流石だと思う。なんというかそれほど難しい曲に聴こえないところが凄い──ただし「難しそうに聴こえない」というのは諸刃の剣だろう。そういった意味で、やはり個人的にはキーシンがファーストチョイスかな。

シューマンブラームスの超絶技巧作品に挟まれた、シューマンの≪アラベスク≫Op.18は、端正で心地よい演奏。こういう「エレガンス」だったら大歓迎だ。



ちなみに「ティボーデ情報」はウィキペディアの英日双方に「基本的なこと」が書かれてあるので、あえて記さないが(特に「パーソナル」な点については)、でもジェーン・カンピオンの映画『ある貴婦人の肖像/The Portrait of a Lady』(原作ヘンリー・ジェイムズ『ある婦人の肖像』)で流れるシューベルトの≪即興曲≫ Op 90 はティボーデの演奏だったというのは、やっぱり書いておきたいね。
シューベルト作品のリリースを期待しながら。

Portrait of a Lady

Portrait of a Lady

*1:全音楽譜出版では1862年第3版となっている

*2:ポリーニ盤CD解説より