HODGE'S PARROT

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ドビュッシー≪忘れられたアリエッタ≫



フランスのエスプリ……と言えば、これだろう。と、クロード・ドビュッシーの歌曲集(メロディ)を聴く。ソプラノはドーン・アップショウ、ピアノがジェイムズ・レヴァイン。二人ともアメリカ人だけど。

Sings Debussy / Forgotten Songs

Sings Debussy / Forgotten Songs


≪ヴァニエ歌曲集/Recueil Vasnier≫はポール・ヴェルレーヌ、テオフィル・ゴーチェ、ポール・ブルジェの詩を、≪忘れられたアリエッタ/Ariettes oubiées≫はヴェルレーヌ、≪ボードレールの五編の詩/Cinq Poémes de Charles Baudelaire≫はその名の通りシャルル・ボードレールの詩集『悪の華』がテクストとして選ばれている。もちろん原語=フランス語だ。
意外に快活で明るくメロディアスな≪ヴァニエ≫に比べ、≪忘れられたアリエッタ≫と≪ボードレールの五編の詩≫は、アンニュイという言葉がこれほどピッタリくるものはない。ドビュッシーならではの繊細で洗練されたピアノの煌きの中で、アップショウの声が美しく響く。アップショウの透明な声は好きだな──シェーンベルクの≪月に憑かれたピエロ≫とアルバン・ベルクの≪アルテンベルク歌曲集≫を歌ってくれないかと、いつも思っている。

意味するものは、その「音声」からは聴き取れないけれど、何かしらのニュアンスは伝わってくる。その表現は何かしら暗示させてくれる。何かしらの快感が喚起される。
でもいちおう「意味」も知りたいのでCDのブックレイトを紐解く。≪ボードレールの五編の詩≫の最後の曲「恋人たちの死」は次のような内容のテクストだ。

Las flores del mal / The Flowers of Evil (Letras Universales / Universal Writings) 我らのベッドは仄かな匂いに満ち満ち、
長椅子は墓のように奥深いだろう、
また飾り棚には珍しい花が置かれていよう、
我らのため、より美しい空の下で開いた花が。


最後の熱を互いに競って燃やし合い、
二つの心臓は二つの大きな炎となり、
その二重の光を映し出すだろう。
我ら二人の心、対をなすこの鏡のなかに。


薔薇色と神秘な青に彩られたある夕べ、
我らはただ一筋の稲妻を取り交わすだろう、
別れを担った、長い嗚咽のように。


やがて一人の「天使」、扉を半ば開いて、
忠実に、嬉々として、蘇らせにくるだろう、
輝きをなくした鏡と消え去った炎を。


ちなみにこのCDはヘネシー社がタイアップしていて、コニャックにおける「オー・ド・ヴィー」(Eaux-de-vie)の「とても複雑で、それでいて完璧なハーモニーを奏でる」さまが音楽と重ねあわされている。もっとも僕はいつものごとくスコッチ・ウイスキーを呷っているが。