クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮、クリーヴランド管弦楽団によるマーラーの交響曲第6番《悲劇的》を聴く。
- アーティスト: ドホナーニ(クリストフ・フォン),マーラー,シェーンベルク,ヴェーベルン,クリーヴランド管弦楽団
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ドホナーニはやはり素晴らしい指揮者だ。鈍重になりかねない「多情多恨の」マーラーの音楽を、機動力と駆動力を備えたスムーズな運動に換えていく。停滞しない。自己耽溺しない。前進あるのみ。クリーヴランド管の機能性も抜群だ。
マーラーと言えば、レナード・バーンスタインが最高だと思っている人が多いだろうが、まあ、それも一つの好みだろう。僕は誰が何と言おうと、ドホナーニの演奏を第一に挙げる。次にアバドとシカゴ響のやつ(ベルリンフィルではない)かブーレーズの演奏かな。
そして、マーラーを聴きながら、長木誠司の「戦後のマーラー・ルネッサンスがバーンスタインから始まった理由 ナチスが音楽界に与えたさまざまな後遺症」(音楽之友社『クラシック ディスク・ファイル』所収)を読む。
さほど長くない文章であるが、この論説で、ナチス時代のドイツ(併合されたオーストリアも含む)における「ユダヤ系の音楽・音楽家の抹殺」がどのように行われたのかが、わかる。
例えば、音楽家自身の追放、抹殺、収容所へ移送は、まず想像がつくことだろう。
しかし「作品として」残された音楽、そして過去の「偉大な」音楽家に対しては、どのようなことが行われたのだろうか。
- 頽廃音楽というレッテル
美術における「頽廃芸術」と同じように、「頽廃音楽」という「ネーミング」が貼られ、見せしめのような展覧会が開かれた。悪意に満ちた中傷と「侮蔑的な」解説が添えられて。
- アーティスト: オムニバス(クラシック),コン(ヘレン),エルツェ(クリスティアーネ),トモワ=シントウ(アンナ),ハース,ツァグロセーク(ローター),マウチェリー(ジョン),ゴルトシュミット(ベルトルト),オルブリッヒ(フォルクマール),ホーソーン弦楽四重奏団,ベルリン放送交響楽団
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- 演奏の禁止
メンデルスゾーンやマイアベーア、マーラーといったすでに亡くなった「偉大な」──過去に何度も演奏されヨーロッパ中で絶賛された──音楽家の演奏は、禁じられた。
- アーティスト: クレンペラー(オットー),メンデルスゾーン,フィルハーモニア管弦楽団
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しかもだ。この演奏禁止の対象には、ユダヤ系の音楽家の作品だけに止まらなかった。
『レコード芸術』(2006年1月号)に掲載された喜多尾道冬氏による『THE MAN AT THE PIANO ミヒャエル・ラオハイゼン リート・エディション』の解説によると、シューマンの『詩人の恋』やシューベルトの『白鳥の歌』には、ユダヤ人ハイネの詩への付曲があることから、これら「ドイツ人作曲家」の傑作でさえ、ナチ政権下では録音が許されなかった経緯が記されている。
Dichterliebe Op 48 / Liederkreis Op 24
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- ユダヤ人であることの秘匿
とくに数奇な「扱い」を受けたのが、ヨハン・シュトラウスである。
ナチが大目に見たユダヤ人作曲家は、ヨハン・シュトラウスだけであったと言われている。オーストリア併合を行ったナチも、この国の象徴とも言うべきワルツ王シュトラウスを禁じることはできなかった。それどころか、ナチはウィーンでもあまり知られていなかったこの事実を、ひた隠ししようとした形跡がある。
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長木氏によれば、「ドイツ音楽史」は、都合良く「書き換えられた」。ユダヤ人作曲家たちの功績が疎んじられ、「曲解された」記述が横行した。
ナチにより「禁止された」音楽は、戦後もなかなか復興しないものがあった。マーラーもそうで、だからこそ、それらの音楽は、ヨーロッパではなくて、アメリカでまず「復興」した、と長木氏は記す。
ところで、上記の文章を書きながら思った。「やおい」もナチスが行った「特定の人たち」の抹殺・抹消と似ていないだろうか、と。
どうして同性愛関係を「やおい」などと言う、ふざけたバカにしきった「言葉」で「置き換える」のか。それは同性愛関係を「やまなし、おちなし、意味なし」とレッテルを貼っていることと同じだ。「頽廃した関係」だという言うのか? 「倒錯した関係」だと言うのか?
なぜ、そんな<言葉>が吐けるんだ?
なぜ、蔑称や差別語を平然と使用できるんだ?
そして、なぜ同性愛者が書いた「同性愛小説」などを「やおい」と呼ぶのか。なぜ、単なる「同性愛映画」を「やおい映画」と「置き換える」のか。それは「異性愛者」による「同性愛者」の抹殺に他ならない。
ゲイ・フィクションは、ゲイ・フィクションである。「やおい」ではない。
ゲイ・コミックはゲイ・コミックである。「やおい」ではない。
同性愛関係は、同性愛関係である。「やおい」ではない。