HODGE'S PARROT

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ウォルフガング・ベルンハルト  ハンサムなコストカッター

HODGE2005-11-09



2005年5月、ウォルフガング・ベルンハルト(Wolfgang Bernhard、44歳)は、フォルクスワーゲン(VW)の取締役の就任した。ベルンハルトは、ダイムラークライスラー社でクライスラー部門の改革・再建をした手腕を期待され、VWに招かれた。

危機的な状況にある企業にとってはきわめて重要なのは、問題があると全員が認めること」だと、ベルンハルトは言う。「現実から目を背けてはいけない」



ニューズウィーク日本版』(2005年9月21日号)の「超低迷VWの救世主」

Dr. Wolfgang Bernhard To Assume Chairmanship Of The Volkswagen Brand [VWvortex.com]

Prof. Dr. Martin Winterkorn and Dr. Wolfgang Bernhard are responsible for the operating business of both core brands and the coordination of the two brand groups. Hans Dieter Pötsch remains responsible for Group-wide finance. Francisco Javier Garcia Sanz will continue to have operational responsibility for global procurement throughout the Group. According to the Group Chairman, “given the many synergies in the Group, separating responsibility by brands or brand groups would only weaken this function.” Dr. Peter Hartz remains responsible for Group-wide Human Resources.

ニューズウィーク』の記事によると、VWはドイツ全体のモデルのような存在であり、ドイツ経済の浮沈を鏡のように映し出しているという。

VWは「社会的市場経済」の象徴的企業であり、共同決定法によって労働者にも大きな権限が与えられた。90年代半ばにはワークシェアリング制導入による雇用政策も行われた。
慈悲深い企業──それがVWのイメージだった。

しかし現在、フォルクスワーゲンの業績は低迷している。「国民車」(people's car)はローギアで走ることを余儀なくされている。したがってベルンハルトの改革は、一企業の改革に止まらない。ドイツ経済全体の「改革」を映し出している。

彼は2008年までにVWの年間のコストを70億ユーロ減らし、製品の品質を高め、新しい製品で攻勢をかけるという改革案の骨子を発表している。

コスト削減。これがVW改革の至上課題だ。第二次世界大戦後の奇跡の経済成長を支えたシステムは、グローバルな競争の激化によって競争力を失った。

ドイツの自動車産業の賃金水準は、世界で最も高い。しかもVWの経営陣は昨年、07年1月までの賃上げ凍結と引き換えに、11年までドイツ国内でのレイオフを行わないことを労働側に約束している。

ドイツでは労働組合の力がとても強い。とくに「共同決定」という制度があり、これによってドイツの大企業は、監査役会のメンバーの半数を従業員の代表から選任するよう義務づけられている。ドイツ企業では、監査役会が取締役を選任する。したがって「共同決定法」は経営にかかわる重要な計画や決定に参画する権利を従業員に保証するというものだ。*1


記事の執筆者カレン・ラウリー・ミラーは、この「共同決定法」がドイツ企業の競争力を損なっているのではないか、と示唆する(またミラーが引用する「労働者は経営戦略そのものを人質に取っている」という法律家テオドル・バウムスの言葉も、かなり強い印象を与える)。
共同決定の問題はマスコミや学界で大きな議論になっているという。

政治の弊害は、VWでとくにはなはだしい。VWにとって、工場閉鎖は不可能に近い。元国営企業の名残で、VM株の18%は今でもニーダーザクセン州保有しており、監査役会にも世論を気にする州の政治家が入っている。定款には、投資家の議決権を最高20%に制限する条項させあり、市場の圧力からの防波堤になっている。

VW's Pickup Man Wolfgang Bernhard: Taking on a troubled brand. [MSNBCNewsweek]

Decades of government ownership (the German state of Lower Saxony holds a controlling stake) have bred a slow-moving corporate bureaucracy at Volkswagen, auto-industry analysts say. At overstaffed German plants, the company still makes 40 percent of its components instead of sourcing them out. To make matters worse, VW management cut a deal with its unions last month that will complicate any effort to execute a turnaround by restraining costs: in return for lower wage increases and work-time flexibility, it guaranteed 106,000 jobs until 2008.


Shifting to High Gear [MSNBCNewsweek]

Bernhard is fighting the fat. German industry has a history of pushing the best engineering without regard to price. When Piech was CEO, VW once put a high-performance rear axle on the Golf that added $960 to the retail price but went unnoticed by consumers. Now, Bernhard says, innovations will target real customer desires.

ウォルフガング・ベルンハルトは、労働者側に決断を迫っている。生産計画の段階において、自動車1台あたりのコストを2000ユーロ減らしたが、ベルンハルトは黒字化するにはさらに850ユーロ削る必要があると主張。労使交渉機関の職場協議会はこれ以上のコスト削減策を拒否、経営側は、それならばとポルトガルに工場を造るという対抗措置を検討している。

「利益の出ない事業で金をムダにはできない」とベルンハルトは言う。

ベルンハルトはクライスラー全米自動車労組(UAW)と戦ってきた男だ。アメリカ流の戦いを今度はドイツで行っている。


ベルンハルトは「東京モーターショー2005」(幕張メッセ)のために来日した。そこでも、改革請負人/コストカッターぶりを大いに披露している。
http://www.asahi.com/world/germany/news/TKY200510260314.html

「売れないのは、消費者が望む価格より高いから」。来日したVW部門会長のウォルフガング・ベルンハルト氏(45)は語った。高値なのは人件費の高さと生産効率の低さが原因という。ドイツより賃金の低い東欧やスペインでの増産や、生産しやすい設計の新型車開発を急ぐ考えを示した。今後3年で70億ユーロ(約9800億円)の収益改善を見込むが、うち50億ユーロはコスト削減で達成する計画だ。

またベルンハルトは、ドイツ人ローマ法王ベネディクト16世に、特別仕様の救急車を進呈し話題を集めた。

VW Chairman gives Pope two ambulances [Canadian Driver]

Volkswagen is supporting the XX World Youth Day with 100 Group vehicles to transport guests and organizers. In total, some one million visitors are expected in Cologne.

"We are delighted to be supporting an important event such as the World Youth Day," said Bernhard. "The young people coming together in Cologne are our future. The message of tolerance, optimism and understanding among nations they are sending all over the world comes from Germany this year, in many ways a valuable sign in itself."

ほんとうに特別仕様で、ずいぶんと目立ちそうだな。

The ambulances are LT 35 high roof panel vans manufactured by Volkswagen Commercial Vehicles and powered by 158 hp, 2.8 litre diesel engines. The vehicles have been equipped to the Vatican's own specification and include extensive medical apparatus.

*1:2001年に改正された事業所組織法は、使用者、従業員、従業員協議会、労働組合、使用者団体の間の協力についてルールを定めている。企業の決定に従業員協議会を関与させること、つまりは企業の決定に従業員を参加させることが、この法律の最大の目的である。従業員が共同決定権を持つことで、労働時間や職場の組織構造、さらには職場のレイアウトに至るまで、さまざまな点で従業員の意見が反映される。共同決定権の中でも、使用者は解雇の前に必ず従業員協議会の意見を聞くことが義務づけられている点が重要である。従業員協議会の意見を聞かずに行われた解雇は無効となる。http://www.tatsachen-ueber-deutschland.de/2260.0.html