HODGE'S PARROT

はてなダイアリーから移行しました。まだ未整理中。

福間洸太朗のシューマン・アルバム

ナクソスの「期待の新進演奏家リサイタル・シリーズ」から、日本人ピアニスト、福間洸太朗がデビューした。

オール・シューマン・プログラムである。が、ここには『交響的練習曲』も『クライスレリアーナ』も『幻想曲ハ長調』も『謝肉祭』も『子供の情景』もない。選ばれた楽曲は、

  • アベッグ変奏曲Op.1
  • 8つのノヴェレッテOp.21
  • 3つの幻想的小品Op.111

というもの。どの曲も、さほど録音が多いものではない。なかでも『ノヴェレッテ』の全曲録音は貴重だ。

演奏も、とてもいい。ロベルト・シューマンのデビュー曲『アベッグ変奏曲』は軽快で楽しく、指が高音域を華麗に駆け巡る。そしてあの、ピアノの構造上「ありえない響き」も十分に想像させてくれる。
晩年の『幻想的小品(幻想小曲集)』も魅力的だ。半音階の焦燥、切れ切れの呟き、重々しく諧謔的な行進曲。どれもシューマンらしい憧憬の残照を感じるにあまりある。

そして『ノヴェレッテ』。あまり演奏されないのが不思議なくらい、シューマネスクな魅力に溢れている。つまり、しつこいリズムと、あまりにも極端に変化する曲調──自由奔放な転調。
例えば6曲目。悲劇的な雰囲気から一転して祝祭の空騒ぎに移るこのアナーキーさは一体何だ。情熱から鬱に沈潜し、再び熱狂的になるのも唐突だ。こういう「ヘンテコ」な曲をダレずに聴かせるのは至難の業だと思う。しかしこのピアニストは、抜群のテクニックで、上記の有名曲に勝るとも劣らない「名曲」に「仕上げ」ている。

我々が『ノヴェレッテン』Op.21(1838)をこの「謝肉祭」の系統と同類と見なすのは偶然ではない。ここでは、「標題音楽」の美学がシューマンの最も幸福な感情を祝福しているし、一方で不連続と常軌を逸したものとの間の形式の奇妙なバランスを、他方で統一のための秩序をシューマンは手に入れているからだ。もっともシューマンの大きな野望を隠したままの秩序だが。


マルセル・ボーフィス『シューマンのピアノ音楽』(小坂裕子・木場瀬純子 訳、音楽之友社)p.71


福間洸太朗は1982年生まれ。パリ国立高等音楽院で学び、2002年ヘルシンキ・マイリンド国際ピアノコンクール第2位及びフィンランド作品最優秀演奏者賞受賞、2003年クリーヴランド国際ピアノコンクールで優勝した。

Abegg Variations

Abegg Variations