HODGE'S PARROT

はてなダイアリーから移行しました。まだ未整理中。

小林五月/シューマン ピアノ作品集IV


幻想小曲集 [シューマン ピアノ作品集IV]

幻想小曲集 [シューマン ピアノ作品集IV]

目に入ったとき、これが、《謝肉祭》や《交響的練習曲》、《子供の情景》といったロベルト・シューマンの人気曲で、名演・名盤が競合しているCDだったら素通りしていたかもしれない──ただしピアノ音楽の中で僕の最も好きな作品《クライスレリアーナ》だったら少し考える。
しかし目に入ったのは…… パガニーニの奇想曲による6つの演奏会用練習曲》Op.10 だった。これはもう、聴くしかない。
聴いた。とても良かった。素晴らしい演奏だった。そしてなぜ、このシューマンの《パガニーニの奇想曲による6つの演奏会用練習曲》が、演奏会のプログラムの挙がらず、録音もほとんどないのか不思議に思った。だって、この曲集こそ、シューマン特有の詩情に溢れ豊かな楽想に満ちているじゃないか──この小林五月の演奏でそれを再確認できた。
第1曲目から、あのシンコペーションを伴った独特のリズムが耳を捉える。そして Non troppo lent という極度にスローなテンポで低音にメロディが現れる第2曲の鬱屈さ──同じパガニーニの曲をフランツ・リストが「別の曲と合体させ」華麗に編曲した作品と比べてみたまえ。演奏時間が14分以上にもなる、一つの楽曲・楽章としてはシューマンの楽曲の中では長大な部類になるであろう第4曲 Maestoso 。最後の第6曲も、いいなあ──ショパンともリストともスクリャービンとも違う、シューマンならではの「練習曲」……ひっそりと弱音で消えるように音楽が終わる……。
そこから、次の《幻想小曲集》 Op.12 の「夕べに」の音楽が遠くから聴こえてくる。「飛翔」の情熱、「なぜ」の瞑想、「気まぐれ」のめまぐるしく変わる情緒、「夜に」の暗いロマン、「寓話」のフモール、「夢のもつれ」の不思議な高揚感、そして「歌の終わり」の幻想に満ちた語り……グッときた。
小林五月によるシューマンの音楽をもっと聴きたくなった。