HODGE'S PARROT

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ペンタゴンはテーバイの「神聖隊」を知らないようだ

アメリカのペンタゴンが敵部隊を「ゲイ化」──正確には、抗し難いほど強力な催淫効果により、兵士同士の性行為を誘発──することによって、士気=moraleを崩すことを狙った極秘計画が曝露されたというニュース。もちろんゲイ・メディアでも報じられている。
Pentagon Sought 'Gay' Bomb [365Gay.com]

ここでは、この「サンシャイン・プロジェクト」の内容よりも、その背景を「問題」にしたい。つまりこれが、

クリントン政権が、軍隊において「兵士に同性愛者であるかどうかを尋ねてもならないし、兵士自ら自分が同性愛者であることを公表してもならない」という、いわゆる「Don't Ask Don't Tell」ポリシーを発動させたことは重要だ。

この「Don't Ask Don't Tell」(聞くな、明かすな)という問題/アポリアについては、ジュディス・バトラーや、軍隊経験もあるスラヴォイ・ジジェクの分析が非常に示唆的である。

……つまり同性愛が、軍隊社会のいわゆる「男根的で父権的」リビドーの経済に対する脅威となっているからではなく、逆に、軍隊社会のリビドー経済そのものが、兵士の男の絆を左右する成分として同性愛を妨害し否定するということに依存しているからなのだ。

(中略)

ここで見逃してはならない鍵を握るポイントは、この極端で暴力的な同性愛嫌悪が、裏をかかれた──つまりそうとは認識されない「地下の」──同性愛的リビドーの経済とからくも共存していることが、軍隊社会の言説が動作するのは自らのリビドーの基盤を検閲すればこそのことだという事実を証言している。


スラヴォイ・ジジェク『幻想の感染』(松浦俊輔訳、青土社

一方、バトラーはジェンダー的、すなわち女性が被る「セクシュアル・ハラスメント」も視野においている。

軍隊は市民権を保留した区域であるが、同時に、この保留しているという位置のおかげで、軍隊において、同性愛の禁止を介して男性中心的な市民を生産する仕組みが鮮やかに語られている。
(中略)
軍の規制は、同性愛を男だけのものとして語っているようだが、明らかにレズビアンもその標的にされており、皮肉なことに、彼女たちの私生活に関する審問は、セクシュアルハラスメントの形態をとっている。言い換えれば、女の同性愛は、ジェンダーの従属関係を保障している異性愛の基軸を脅かす危険性があるので、女は、自分の同性愛を語ることができない。他方、男が自分の同性愛を語るときには、その語りは、男という階級を相互に結びつけているホモソーシャリティを白日のもとに晒し、結果的にそれを破壊する危険性をもってゆく。



ジュディス・バトラー『触発する言葉』(竹村和子訳、岩波書店

幻想の感染

幻想の感染

触発する言葉―言語・権力・行為体

触発する言葉―言語・権力・行為体