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ヴァシリー・プリマコフのショパン:ピアノ協奏曲


Primakov Plays Chopin Concertos

Primakov Plays Chopin Concertos

  • アーティスト: Fryderyk Franciszek Chopin,Paul Mann,Odense Symphony Orchestra,Vassily Primakov
  • 出版社/メーカー: Bridge
  • 発売日: 2008/11/11
  • メディア: CD
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先日、チャイコフスキーの作品集を聴いて、その強靭な技巧と陰影に富んだ表現力に一気にファンになったロシアのピアニスト、ヴァシリー・プリマコフ(Vladimir Primakov、b.1979)。フレデリック・ショパンのピアノ協奏曲第1番ホ短調 Op.11&第2番ヘ短調 Op.21 のディスクが出ていたので早速聴いてみた。共演はイギリスの指揮者ポール・マン/Paul Mann、デンマークのオーデンセ交響楽団/Odense Symphony Orchestra だ。

なによりもチャイコフスキーのCD以上にファッションモデル風のジャケットが目を惹く。期待はじわじわと高まる。プレイヤーにCDを入れ、スイッチオン──スピーカーから音が流れてくるのを待つ。静寂。そして……え? この曲何?
一瞬、虚を突かれた。ショパンピアノ協奏曲第2番が流れてきたからだ*1。……だって第1番と第2番のカップリングだったら、通常なら、第1番が先だと思うじゃない。だからあのオーケストラ(弦楽器)によるメロディとピッチ(ホ短調)を予想していて、すっかり心の準備していたのに……まるで水泳でフライングをしてバランスの崩れた飛び込みをしてしまったかのような気恥ずかしい気分になった。なのでリセットボタンを押してもう一度最初から。

とてもいい演奏だった。第2番のピアノ協奏曲はこれまでアシュケナージの60年代の録音が最高だった──テクニックと表現力において。このヴァシリー・プリマコフの演奏は、そのアシュケナージ盤に匹敵するか、あるいは録音の良さを考慮したらそれ以上かもしれない。テンポがまず、いい。鋭敏なタッチから生まれるピアノの音が、とてもいい。そしてロマンティシズム溢れる表現──とくに第2楽章はドラマティックで聴かせる。久しぶりに、第2番コンチェルトをじっくりと耳をそばだてて聴いた。

第1番もよかった。この曲は、録音でも演奏会でも聴く機会が多いし、ピアノ譜も持っているので「どんな音楽であるのか」だいたい「知って」いる──だからそれほど新鮮味のある曲ではないのだが……ヴァシリー・プリマコフの演奏はとても新鮮に聴こえた。強引な解釈なのではない。第2番と同様、テンポがとてもいい。速すぎるのでも遅すぎるのでもない。ショパンのこの曲であるならば、これくらいのテンポで聴きたい、という「僕の希望」が見事に叶えられたという感じだろうか。その正攻法の演奏が、スリルに満ち、とても新鮮に聴こえた。
しかもプリマコフは、ショパン=最高のピアニストによる独創的なピアニズムを余すところなく伝えることのできるテクニックをもっている。優美さ、繊細さ、そして大胆さ、力強さ。改めてショパンのピアニズムを凄味を知り、それを堪能した。
ピアノとオーケストラとの調和も、この演奏の美点の一つであろう。「ショパンの」ピアノ協奏曲だからといって、ピアニストがスタンドプレーになっているわけではない。ポール・マン&オーデンセ交響楽団もピアニストと同様、スマートでニュアンス豊かな響きを聴かせてくれる。オーケストラの様々な音が──これまで聴いたことのない、あるいは聞き流していた音が──くっきりと聴こえることも、新鮮だった。
ショパンのピアノ協奏曲に関しては、まだまだ知らないことがたくさんあった。ヴァシリー・プリマコフとポール・マン、そしてオーデンセ交響楽団三者がそのことを教えてくれた。

*1:もちろんブックレットに記されているように、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番&第2番と同じく、ショパンの場合も、実際の作曲年代と作品番号が逆になっている。プリマコフはそのことを十分に意識してプログラムしたのだろう。