前回に引き続き、15編を選んでみた。
- ジェイムズ・サーバー「マクベス殺人事件」(早川書房『虹をつかむ男』)
- クルト・クーゼンベルク「秩序の必要性」(国書刊行会『壜の中の世界』)
- シオドア・スタージョン「たとえ世界を失っても」(河出文庫『20世紀SF 1950年代』)
- ジュール・シュペルヴィエル「海に住む少女(沖の少女)」(光文社古典新訳文庫『海に住む少女』)
- グスターボ・アドルフォ・ベッケル「ミゼレレ」(岩波文庫『緑の瞳・月影』)
- ハンス・エーリヒ・ノサック「海から来た若者」(岩波文庫『死神とのインタビュー』)
- ジョヴァンニ・パピーニ「きみは誰なのか?」(国書刊行会『逃げてゆく鏡』)
- カーソン・マッカラーズ「木石雲」(白水社『悲しき酒場の唄』)
- マイケル・ブラムライン「器官切除と変異体再生──症例報告」(白水社『器官切除』)
とくにジェイムズ・サーバーの「マクベス殺人事件」について書いておきたい。だって、こんな抱腹絶倒の小説はなかなかお目にかかれないからだ。
ストーリーは……アガサ・クリスティの大ファンの女性が、推理小説と間違えてシェイクスピアの『マクベス』を買ってしまったのだが、他に読むものがなかったので、彼女は『マクベス』を「推理小説として」読んだ。すなわち国王を殺したのは誰なのか? 彼女は推理する──マクベスがやったとはとても考えられない、と。
「あの人が王様を殺したなんて全然考えられないわ」と相手は言った。「それからマクベスのおかみさんがグルになっているとも思えないわね。もちろん、だれでもあの夫婦が一番あやしいと思うでしょう、ところがあやしいのにかぎって絶対シロなのよ──ともかくシロであるべきなのよ」
「ぼくにはどうも、その──」
「おわかりにならない?」と、このアメリカの婦人は言った。「だって読んですぐ犯人だとわかってしまったら話はぶちこわしだわ。シェークスピアは利口よ、そんなヘマをするもんですか。あたし、前になにかで読んだけど、『ハムレット』の謎を解決した人はまだ誰もいないんですってね。そのシェークスピアが、あなた、『マクベス』を書くのにそんな見えすいた手を使ったりしないわよ」私はパイプにタバコをつかめながら、もう一度考え直した。
「犯人は誰です?」と私はいきなり切り込んだ。
「マクダフです」と彼女はズバリと答えた。
ジェイムズ・サーバー「マクベス殺人事件」(鳴海四郎 訳、早川書房『虹をつかむ男』より) p.60
- 作者: ジェイムズサーバー,James Thurber,鳴海四郎
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/09/01
- メディア: 単行本
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