まだ続いています(笑)。
- シャーロット・パーキンズ・ギルマン「黄色い壁紙」(創元推理文庫『淑やかな悪夢』)
- スティーヴン・ミルハウザー「幻影師、アイゼンハイム」(福武書店『バーナム博物館』)
- テネシー・ウィリアムズ「片腕」(白水社『呪い』)
- ウラジーミル・ナボコフ「目」(白水社『四重奏・目』)
- ボリス・コンスタンチーノウィチ・ザイツェフ「静かなあけぼの」(集英社『ロシア短編24』)
- ハンス・ヘニー・ヤーン「家令を選ぶとき」(白水社『十三の無気味な物語』)
- シャーリイ・ジャクスン「くじ」(早川書房『くじ』)
ウィリアムズとヴィアン以外は幻想的な作品ばかりになってしまったが、これは短編のほうが幻想や恐怖をより効果的に醸し出すのに適しているからかもしれない。長編だと、例えばモダン・ホラーがそうであるが、幻想的な味わいよりも、追跡劇や冒険譚、そしてロマンスなど比重が高くなりがちだ。
アメリカの作家シャーロット・パーキンズ・ギルマンの「黄色い壁紙」(The Yellow Wallpaper)について記しておきたい。ストーリーは、見た目には幸福に見える主婦がある屋敷に滞在するのだが、彼女はそこの部屋を覆っている「黄色い壁紙」に不気味な幻影を見てしまう。異様な模様の壁紙。彼女はそこに、その模様に「女の姿」を見る──無数の女たちは這い回っている。どうして「彼女たち」は地面を這いまわっているのか。
時には、模様の向こうにものすごくたくさんの女がいるような気がする。時には一人きりのような気もする。女はすばやく這いまわる。女の動きが模様全体を揺らすのだった。
明るい箇所では女は温柔しくしている。暗いところでは自分を閉じこめる檻をつかんで激しく揺さぶる。
女たちはいつも模様を登って通り抜けようとしている。でも誰も通り抜けられない──模様は彼女たちを締めつけるのだ。たぶんそれで、模様には頭がいっぱいあるのだと思う。
女たちは通り抜けようとする。模様は彼女たちを絞め殺し、仰向けにする。彼女たちは白眼をむく。
もし、頭をみんな何かで覆うか、外すかしたら、壁紙の不快さは今の半分以下に減るだろう。
「黄色い壁紙」(西崎憲 訳、『淑やかな悪夢』より) p.106
- 作者: シンシア・アスキス他,倉阪鬼一郎,南條竹則,西崎憲
- 出版社/メーカー: 東京創元社
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シャーロット・パーキンズ・ギルマン(Charlotte Perkins Gilman、1860 - 1935)はフェミニズム運動に参与した作家であった。
1892年にシャーロット・パーキンズ・ギルマンが発表した「黄色い壁紙」は、規範的な妻や母であることを強要する性体制がいかに女を苛み、さらにその〈治療〉がいかに女を狂気にまで仕立てあげるかを迫力に満ちて描いた小説だが、1970年代にフェミニズムのテクストとして再評価されるまでは、単なる恐怖小説として位置づけられていたにすぎない。
竹村和子『フェミニズム (思考のフロンティア)』(岩波書店) p.13
Yellow Wallpaper and Other Writings (Modern Library Classics (Sagebrush))
- 作者: Charlotte Perkins Gilman
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