別にどなたが、というわけではないが、年齢が高い人って「攻撃的/挑発的な音楽」はあまり聴かないのではないかと思っていた。ハイドンとかモーツァルトとか、その辺がお気に入りなんじゃないかな、と。でも、ベルリオーズやバルトークのような「パンクな」音楽が好きな人もいるようで、なかなか良い傾向じゃないかと思う。
ベルリオーズの《幻想交響曲》は、当時としては、奇抜なサウンドで人々を驚かしたのだろう。なんと言っても弔鐘が鳴り響き魑魅魍魎が闊歩する悪魔の饗宴──「ワルプルギスの夜の夢」。現在聴いても、十分、アヴァンギャルドだ。シューマンのピアノ曲やストラヴィンスキーの《春の祭典》ほどではないが、《幻想》はわりと好きな曲で、CDも複数枚持っている。いくつか引っ張り出してきて、フィナーレの「ワルプルギスの夜の夢」を聴いた。
シャルル・ミュンシュ指揮、ボストン交響楽団の演奏。1954年の録音なのに音がとても鮮明だ。鐘もガーンと目の前で叩かれたように鳴る。演奏は熱血そのもの。熱い。そして、なんと言っても、ジャケットカヴァーが強烈だ。
これは僕の固定観念なのだが、ジャケットカバーに指揮者が映っているCDよりも、強烈なイラストが使用されているもののほうが──それが強烈であればあるほど──演奏も強烈で聴き応えがあるように思う。《幻想》はジャケットで選んでいるといっても過言ではない。
Symphonie Fantastique / Tristia
- アーティスト: Hector Berlioz,Pierre Boulez,Cleveland Orchestra,Cleveland Orchestra Chorus
- 出版社/メーカー: Deutsche Grammophon
- 発売日: 1997/08/12
- メディア: CD
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ピエール・ブーレーズ指揮、クリーヴランド管弦楽団。こちらも幻想的な絵が、アヘン中毒の悩める青年の気分にぴったりだ。演奏も精緻で、さすがブーレーズ。とりわけ鐘の音が、まるで超音波のように高音で鳴り響き、脳髄に鮮烈な刺激を与えてくれる。
イラストは Pham van My という人で、他にDG盤ブーレーズのラヴェルやドビュッシーも手がけている。
- アーティスト: ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団,ベルリオーズ,レヴァイン(ジェームス)
- 出版社/メーカー: ポリドール
- 発売日: 1997/09/05
- メディア: CD
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イラストは Celia Johnson さんのもの。原色の使用が目を引く。で、演奏はジェイムズ・レヴァイン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。ドラマティックで響きもゴージャス。鐘は低めのピッチで重厚に震える。
チョン・ミュンフン指揮、パリ・バスティーユ管弦楽団の演奏。メリハリがあって、鐘の音も雰囲気が出ている。カップリングがアンリ・デュティユの《メタボール》というのもいい。絵は Ralf Krieger 氏による。
- アーティスト: Berlioz,Dutoit,Mso
- 出版社/メーカー: Polygram Records
- 発売日: 1990/10/25
- メディア: CD
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カヴァーのイラストは魔物めいているけれど、洗練された美しい響きで耳を楽しませてくれるのがシャルル・デュトワ&モントリオール交響楽団だ。鐘は遠くから鳴り、主人公が耽溺する夢の世界を繊細に、そして流麗に表現する。録音も鮮明で解像度が高い。
ところでこのデュトワ盤の解説を読んだのだが、これによるとデュトワがモントリオール響に就任してからわずかの間にメンバーの40%が入れ替わったのだという。そのことに関するデュトワのインタビュー記事も載っているのだが……はっきり言えば、彼が団員にかなりプレッシャーを与え、そのため団員が辞めていったようだ。プレイヤーのほとんどが(この当時)30歳未満で「彼らが悪い習慣に染まっていない利点がある」「私は音の濁りが大嫌いですから」と応えている。
美しい音を出すためには、かのように厳しい「現実」があるようだ。