- アーティスト: Alexander Scriabin,John Ogdon
- 出版社/メーカー: EMI Classics
- 発売日: 2006/08/31
- メディア: CD
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今年はイギリスのピアニスト、ジョン・オグドン(John Ogdon、1937 - 1989)の生誕70年にあたる。先月の『レコード芸術』でも、グレアム・ケイ(Graeme Kay)がオグドンの「新譜」について、レポートを書いていた。
ケイによれば、ロイヤル・マンチェスター・カレッジ・オブ・ミュージック(Royal Manchester College of Music)で学んだオグドンの周囲には、ハリソン・バートウィッスル、アレクザンダー・ゲール、エルガー・ハワーズ、ピーター・マックスウェル・デイヴィスらといった作曲家がいた。1962年のチャイコフスキー・コンクールでアシュケナージと第一位を分け合った後には、オグドンは、現代音楽に強烈な関心を寄せる極めつけのヴィルトゥオーゾという評判を確立したという。ただし11年間ほど、と、ケイは限定して記している。
というのも、オグドンは精神疾患を患い、1973年(当時36歳)以降、演奏活動ができなくなったからだ。
1973年に重度の神経衰弱に見舞われる。きちんと診断されぬまま、父方からの遺伝とみられる精神分裂ないしは躁鬱病との見立てがなされた。演奏会を白紙に戻して入院し、電気ショック療法などの治療を受ける。
長期入院と薬物療法のおかげで病状も落ち着いたのですが、彼はすでに昔の彼ではなくなっていました。1983年以降、ときおりステージに登場していましたが、どちらかといえば、波乱含みの舞台が多かったです。
このアレクサンドル・スクリャービンの作品集は1971年に収録されている。今でこそスクリャービンは多く弾かれるが、当時はまだ、前衛的な作曲家といった印象が大きかったのではないかと思う。
ソナタ全10曲に、《焔に向かって》を含む詩曲、前奏曲、練習曲が収録されている。
意外に、と言っては何だが、それほど「妖しい」感じはしない。神秘和音がふんだんに登場する後期のソナタ──とりわけ「白ミサ」「黒ミサ」「トリル・ソナタ」──や《焔に向かって》にしても、ペダルが少ないせいか、さほど異様な音響にはなっていない。硬質の音で、タッチにも柔軟性があるとは言えないので、そういった点では、蠱惑的なソフロニツキーや美音かつ洗練された技巧のアシュケナージ──洗練されすぎて面白くないという意見も多いようだが──と比べると、ドライで素っ気無い感じがする。
確かに甘美でも官能的でもない。ただ、打鍵の荒々しさはこのピアニストならではで、ときおりドキリとさせてくれる。例えば一分にも満たない長さの前奏曲の打撃。そして3番のフィナーレや4番の第2楽章などで猛突進していく様は、何かに憑かれている気がしないでもない。