HODGE'S PARROT

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フランク・ブリッジの「弦楽四重奏のための作品集」



何か一つの「ジャンル」に関わると、そればかりに拘ってしまう(もちろんそれは「マイ・ブーム」──死語か、これ──が過ぎるとすぐ飽きるという裏返しなのだが)……というのは、僕の「師匠」であるロベルト・シューマンの影響なのか(笑)。

というわけで、英国音楽の精華を。かつてはベンジャミン・ブリテンの師匠としてのみ名高かったフランク・ブリッジ(Frank Bridge、1879 - 1941)の作品を Naxos が数多くリリースしてくれている。その中の一枚で、マッジーニ四重奏団(Maggini Quartet)の演奏による弦楽四重奏作品だ。

Works for String Quartet

Works for String Quartet


収録曲は、

  • 幻想四重奏曲
  • 3つのノヴェレッテ
  • 3つの牧歌
  • アイルランドの旋律:ロンドンデリーの歌
  • ロジャー=ド=カヴァリー卿
  • 横町のサリー
  • 熟したさくらん
  • 3つの小品


フランク・ブリッジは、イギリスにあって、当時のヨーロッパ大陸の進歩的な音楽技法を取り入れていた稀有な作曲家であったが、それゆえに楽壇では孤立していたという──それゆえにブリテンらの支持があったのだろう。解説によれば、1921年から24年にかけて作曲されたピアノソナタには、アルバン・ベルク──彼の師匠は、言うまでもなく、無調/12音技法を確立したシェーンベルクである──の影響が明白であるという。
ちなみにブリッジの師匠の一人は、プロテスタントアイルランド人(アイルランド聖公会、Irish Anglicans)、チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードだ。


《幻想四重奏曲》は、いちおうヘ短調という調性を持つが、苦みばしった響きと行進曲風のリズムが実にカッコいい。個人的にも、こういうプロコフィエフのような作風──もっともブリッジにはプロコフィエフのような諧謔やグロテクスさはないが。そこはやはりジェントルマンなのかもしれない──は大好きだ。タイトルにある「幻想」(Phantasie)は、ロマン派の作曲家にみられる意味での「幻想」ではなく、古風なエリザベス朝のコンソート(Elizabethan consort music)に由来している。ただし、この曲に──あるいはブリッジの作品に──「ロマンティシズム」がないわけではない。それは節度のある抑制の効いたものだ。

シューマンの作品を容易に連想させる《ノヴェレット》は、しかしブリッジにおいては、当時としては大胆なハーモニーを駆使したミニアチュールとしてある。繊細な響きが魅力だ。《3つの牧歌》にしてもそうで、暗い色調が仄かなノスタルジーを誘う。

《ロンドンデリーの歌(ダニー・ボーイ)》は、僕もクライスラー編曲によるヴァイオリン曲をレッスンで弾いたことがあるが、あのように名旋律を浪々と繰り返し歌うのではなく、燻んだ、苦い響きの中から立ち上がるようにして使用している。奥ゆかしいではないか。