HODGE'S PARROT

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要するに〜「Gay but Wistful」なグレインジャー



サイモン・ラトル指揮バーミンガム交響楽団による、パーシー・グレインジャーの管弦楽曲集を聴いた。

Grainger in a Nutshell

Grainger in a Nutshell

パーシー・グレインジャー(Percy Grainger、1882-1961)は、オーストラリア生まれ。13歳で渡欧し、独フランクフルトでピアノと作曲を学び、イギリス、そしてアメリカへと移住する。ピアニストとして活躍し*1、作曲家エドヴァルド・グリーグに絶賛された。

このCDには以下の曲が収録されている。

  • 組曲≪早わかり(要約すれば)/In a nutshell≫
    • 到着ホームでうたう鼻歌
    • 陽気な、しかし物足りなそうな
    • 田園詩
    • 「ガムサッカーズ」マーチ
  • トレイン・ミュージック
  • カントリー・ガーデンズ(イングランドのモリス・ダンスの調べ)(1950、レオポルド・ストコフスキー版)
  • 鐘の谷〜ラヴェル作曲≪鏡≫より
  • 組曲リンカーンシャーの花束≫
    • リスボン(船乗りの歌)
    • ホークスト-農園(守銭奴とその召使い)
    • ラフォード猟園の侵入者(密猟の歌)
    • 元気な若い船乗り
    • メルボルン卿(戦いの歌)
    • 行方不明のお嬢さんがみつかった(踊りの歌)
  • パゴダ〜ドビュッシー作曲≪版画≫
  • 戦士たち(想像上のバレエ音楽)


ウィットに富んだタイトル。色彩的なオーケストラレーションが眩く、野性的なリズムに心躍る。グレインジャーはその音楽の随所に様々な創意工夫と実験を試みた──彼は「オーストラリアのアイヴズ」と呼ばれた。しかし、なんといっても、ノスタルジックで夢みるような束の間の甘さが心地良い。要するに(In a nutshell)、グレインジャーの音楽は、「高貴なる野蛮」(Noble Savage)で、「陽気であるが、どこか哀愁を帯びた」(Gay but Wistful)感じなのだ。

Country Gardens

Country Gardens

……パーシー・グレインジャーという極めて風変わりな青年が登場した。とてつもない長身でもじゃもじゃと長い髪をたらした、今でいうとヒッピー風の熱狂的菜食主義者で、演奏旅行をするのもナップザック姿という調子であった。
しかし彼は、二十世紀を代表するヴルチュオーゾの一人であったことは誰しも認める事実である。彼はかのフェルッチョ・ブゾーニの弟子であり、北欧のピアノの詩人グリーグが最も信頼した友人であり、ドビュッシーアルベニスなどの近代ピアノ作品のすぐれた奏者であると同時に、自身も作曲家であった。




中村紘子ピアニストという蛮族がいる』(文藝春秋) p.216

晩年のグレインジャーは新しい音楽の探求に向う。「鳥の飛翔のような旋律、大洋の波のようなリズム、夕空のような和声」を実現するため、伝統的な音階・拍子・和声から解放された「自在音楽(フリー・ミュージック)」を構想し、それを奏でる独自の自動演奏機械の開発に没頭する。




宮澤淳一 「パーシー・グレインジャー管弦楽曲集」CDブックレットより

Percy Grainger

Percy Grainger



[Percy Grainger]

*1:マーガレット・ミラーも『眼の壁』でグレインジャーに言及している。