HODGE'S PARROT

はてなダイアリーから移行しました。まだ未整理中。

ゴリアード〜就職にあぶれ世をすね反体制的な心情を持ったインテリ




二日酔い気味なので、濃く淹れた紅茶をガブ飲みし、目を覚ます。音楽も、「おお、運命の女神よ」(O Fortuna)で始まるカール・オルフ作曲の『カルミナ・ブラーナ』をチョイス。この20世紀を代表する「世俗カンタータ」の原始的で強烈なリズムが轟く大音響で、耳にも活を入れる。

演奏はヘルベルト・ブロムシュテット指揮サンフランシスコ交響楽団&合唱団。ソロはリン・ドーソン(ソプラノ)、ジョン・ダニエッキ(テノール)、ケヴィン・マクミランバリトン)。1990年録音。レーベルはDECCA(London)。鮮烈なデッカ・サウンドを堪能した*1

Carmina Burana

Carmina Burana

  • アーティスト: Kevin McMillan,Carl Orff,Herbert Blomstedt,San Francisco Symphony Chorus,San Francisco Symphony Orchestra,Lynne Dawson,John Daniecki,San Francisco Girl's Chorus,San Francisco Boys' Chorus
  • 出版社/メーカー: Decca
  • 発売日: 1991/10/11
  • メディア: CD
  • クリック: 3回
  • この商品を含むブログ (1件) を見る


カルミナ・ブラーナ」(Carmina Burana)とは「ベネディクト・ボイレンの歌」という意味。この詩歌集が保存されていた南ドイツのベネディクト会ボイレン修道院(Benediktbeuern)に由る。ただしその内容は、恋愛や酒、そしてセックスに関するもので満ち溢れており、風刺やパロディも効いた、露骨で野卑な詩歌なのだ。
それもそのはず。これらの歌を残したのが「ゴリアード」(Goliard)と呼ばれる学生や下級聖職者たちだからである。手っ取り早く言えば大学出の不満分子。皆川達夫氏がそのゴリアードを見事に説明している。

十一世紀のころから十三世紀ごろにかけて、ヨーローッパにはゴリアードとよばれた放浪の学生たちや下級聖職者──つまり生臭さ小坊主が横行していました。今日ふうにいえば、就職にあぶれて、世をすね、反体制的な心情をもつにいたったインテリたちです。彼らがラテン語によって愛や酒や教会批判やらをうたった歌曲は、今日《カルミナ・ブラーナ》という名前の歌曲集で残されています。


(中略)


そこには、既成道徳や宗教に律されない生き生きとした人間感情がみられ、二十世紀人の心情にも通じる何ものかが聞きとられます。やや取りすましたトルヴェールやミンネゼンガー歌曲とはちがった、より赤裸々の人間像というわけですね。




皆川達夫『ON BOOKS(97)ルネサンスバロック名曲名盤100 (オン・ブックス)』(音楽之友社)p.26

ところで、オルフの『カルミナ・ブラーナ』という「酒池肉林」の音楽を指揮したヘルベルト・ブロムシュテット(Herbert Blomstedt)であるが、彼はアメリカ生まれのスウェーデン人で、宗教はプロテスタントセブンスデー・アドベンチスト教会派(Seventh-Day Adventist)に所属している。セブンスデイ・アドヴェンティストは禁酒禁煙、菜食主義の立場を取っている宗派。そのためブロムシュテットも極めて厳格なベジタリアンヴィーガンvegan )を実践しているのだ。

例えばウィキペディアブロムシュテットの項にはこんなエピソードが紹介されている。

徹底した菜食主義者としても有名で(宗教上の理由による)、肉はおろか、少しでも動物を屠ることによって得た材料を使用しているものは口にしない。名誉指揮者を務めるNHK交響楽団に来演したとき、NHKは昼食の折、ブロムシュテットに蕎麦を出したが、その時に出された蕎麦つゆは魚をだしにしたものであり、ブロムシュテットは蕎麦の麺だけ食べたということもあった。




ヘルベルト・ブロムシュテット [Wikipedia Ja]


また『SEE MAGAZINE』には、ブロムシュテットと『カルミナ・ブラーナ』について以下のような言及があって興味を惹く*2

Kevin McMillan's recording of Carmina Burana with Herbert Blomstedt conducting the San Francisco Symphony and Chorus, which received a Grammy Award in 1992, is considered by many to be the definitive recording of the work.


"It's a great honor (to be a part of that recording). I am a huge admirer of Maestro Blomstedt. It was a great pleasure to work with him when I did.


"There is a very interesting sort of contradiction between that piece and him. It's fairly public knowledge that he is Seventh-Day Adventist and a very devout, lifelong vegetarian - just a very noble fellow. And Carmina Burana is not exactly the piece that one might associate with one of his polity . . . Carmina Burana always gets billed as this sort of lascivious (piece of) frivolity. But if you really look at the text of it, if you look at the structure of the whole piece, it is rather a dark work.




PREVIEW Carmina Burana



[セブンスデー・アドベンチスト教会について]

セブンスデー・アドベンチスト教会(第7安息日再臨派)は、1800年代後半にアメリカで起こったプロテスタントの一派。名称のセブンスデーは週の第7日の安息日を、アドベンチストはキリストの再臨を待ち望む者を意味する。




プロテスタントの中でも一般的な異言の解釈に対し、聖句の中のうめき声を出す祈りの方法に異を唱え、神聖なお祈りを追求し静かな祈りを教理とする。彼らの異言とは不明瞭なうめき声ではなく、外国語を意味し、宣教時等に主の力を得て、今まで話せなかった外国語が出ると言う教理を持っている。


そして、一般的な永遠の地獄説を否定し、「永遠の火にあぶられる。(マタイ3-12)」の聖句を研究した結果、創世記19の「ソドムとゴモラの滅亡時に火に焼かれ、灰になった」を根拠に永遠地獄説を否定する。これは審判を受ける者に火が彼を焼き尽くすまで消える事のない永遠の火を意味すると言うのが彼ら独特の原理主義による解釈である。 この教理は英聖公会、米聖公会と同じ教理でもある。




ウィキペディアより

Health, diet, and sexuality


Since the 1860s when the church began, wholeness and health have been an emphasis of the Seventh-day Adventist church. Seventh-day Adventists present a health message that recommends vegetarianism and expects abstinence from pork, shellfish, and other foods proscribed as "unclean" in Leviticus 11, as well as from alcohol and tobacco.



According to an official statement from the General Conference, heterosexual marriages are the only biblically ordained grounds for sexual intimacy.*3 Seventh-day Adventists do not perform same-sex marriages and gay men cannot be ordained. An extramarital affair is one of the sanctioned grounds for a divorce. Masturbation has also been traditionally condemned as a sinful practice, contrary to God's design for the body as the temple of the Holy Spirit and for sex as a shared experience within marriage.



Wikipedia より


セブンスデー・アドベンチスト教会派は、土曜日が安息日であると主張する(第7安息日、土曜礼拝)。したがって「安息日をすりかえた」カトリック教会(主日、日曜礼拝)を激しく批判している。だた、ブロムシュテットは、いかにもカトリック的な作曲家であるアントン・ブルックナーの作品をしばしば演奏し録音している。その演奏の評価も高いのが興味深いところ。

ブルックナー:交響曲第9番

ブルックナー:交響曲第9番



セブンスデー・アドベンチスト教会(SDA)信者には、他にシリアルで有名なケロッグ社の創設者ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ&ウィル・キース・ケロッグ兄弟などがいる。もっともこちらは牛乳を口にしても良いという立場を取っているのだろう。「厳格さ」の基準は様々だ。

*1:”This recording was made using B & W Loudspeakers”とある

*2:このブロムシュテット盤『カルミナ・ブラーナ』は1992年度のグラミー賞Best Performance of a Choral Work」を受賞した(受賞年は1993年)

*3:Seventh-day Adventist Position Statement on Homosexuality