《ドラミング》、《ピアノ・フェイズ》、《マレット楽器、オルガン、声のための音楽》、《18人の音楽家のための音楽》などで知られるミニマル・ミュージックの旗手、スティーヴ・ライヒ(Steve Reich、b.1936)が、高松宮殿下記念世界文化賞(Praemium Imperiale)を受賞した。9月7日、ニューヨークのロックフェラーセンターで発表された。
高松宮殿下記念 世界文化賞 草間彌生氏ら5氏が受賞 [Fuji Sankei Business i]
優れた芸術の世界的な創造者たちを顕彰する「高松宮殿下記念世界文化賞」(主催・財団法人日本美術協会=総裁・常陸宮殿下)の第18回受賞者が決まり、前衛芸術家の草間彌生(やよい)氏、ロシアのバレリーナ、マイヤ・プリセツカヤ氏ら5人が選ばれた。草間氏の受賞は日本人では8人目で、女性では初めてとなる。
今回の受賞者は、絵画部門=草間彌生(77)〈日本〉▽彫刻部門=クリスチャン・ボルタンスキー(62)〈フランス〉▽建築部門=フライ・オットー(81)〈ドイツ〉▽音楽部門=スティーヴ・ライヒ(69)〈アメリカ〉▽演劇・映像部門=マイヤ・プリセツカヤ(80)〈ロシア〉−の5氏。
スティーブ・ライヒ氏「名誉」 世界文化賞の喜び語る [産経新聞]
ライヒ氏を紹介したハービー・リキテンシュタイン氏はニューヨーク市ブルックリン区にある複合芸術施設ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック(BAM)をリンカーン・センターなどと並ぶ芸術の殿堂に育てた人物。「BAMから大きな影響を受けた」というライヒ氏は壇上でリキテンシュタイン氏と喜びを分かち合った。
そして日本にも多くのファンを持つライヒ氏は「日本のディスクジョッキーの人が私の曲をリミックスして使ってくれていることを知っています。日本が私の味方でいてくれることに本当に感謝しています」と語った。
- アーティスト:スティーヴ・ライヒ・アンサンブル,シアトル・オブ・ボイス
- 発売日: 1996/11/30
- メディア: CD
Steve Reich Wins Music Prize [NY Times]
The American composer Steve Reich was named the winner yesterday of the 18th annual Praemium Imperiale prize for music. The prizes, recognizing lifetime achievement in the arts in categories not covered by the Nobel Prizes, carry an award of about $131,000 each. Other winners announced in ceremonies in the Rainbow Room at Rockefeller Center in Midtown were the former Bolshoi Ballet prima ballerina Maya Plisetskaya of Russia in the category of theater and film; Yayoi Kusama of Japan in painting; Christian Boltanski of France in sculpture; and Frei Otto of Germany in architecture. The formal awards ceremony is to take place in Tokyo on Oct. 18, when the laureates will receive gold medals from Prince Hitachi, honorary patron of the Japan Art Association, which makes the awards.
- アーティスト:ライヒ(スティーヴ)
- 発売日: 1996/10/10
- メディア: CD
Composer Reich among Japan award winners [Reuters]
American Steve Reich won Japan's Praemium Imperiale award for music on Thursday, but the influential minimalist composer said it took time for his work to be widely accepted.
"It was like Bartok when he wrote his first quartet -- people went crazy," Reich, 69, said referring to Hungarian composer Bela Bartok whose six quartets were composed between 1909 and 1939.
Now recognized as one of America's greatest composers, Reich was named as one of five honorees by the imperial family's Japan Arts Association in New York.
- アーティスト:コールドカット,トランキリティ・ベース,竹村延和
- 発売日: 1999/03/25
- メディア: CD
[Steve Reich official site]
ウィキペディアの「高松宮殿下記念世界文化賞」には、これまでの受賞者一覧が載っている。音楽部門では、第一回のピエール・ブーレーズをはじめ、レナード・バーンスタイン、ジェルジ・リゲティ、アンリ・デュティユー、ルチアーノ・ベリオ、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、クラウディオ・アバドと言った錚々たる音楽家が受賞している。昨年2005年はピアニストのマルタ・アルゲリッチだった。
それにしても、ライヒがこれら「主流の」現代音楽の作曲家や演奏家と肩を並べ、文化賞が与えられるのは不思議な感じがする。なんといってもライヒって「カウンターカルチャー」を標榜し、西洋的な主観性を無効にするような偶然性=批判性を音楽に持ち込んだからだ。まあロイターのコメントでは、ライヒは自分をバルトークに擬え、当時クレイジーと呼ばれた音楽が受け入れられた、と喜んでいるようだが。
- アーティスト:Kronos Quartet,Mika Yoshida
- 発売日: 2001/11/02
- メディア: CD
産経新聞(Sankei Web)の記事によると、ニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグ氏(Michael Bloomberg、共和党)は日本美術協会に感謝状を贈り、「2006年9月7日をニューヨークの『世界文化賞の日』とする」と宣言したそうだ。ちなみにブルームバーグ市長はリベラルで、中絶に対しては「プロ・チョイス」、同性婚支持、銃規制の立場である。
Bloomberg declined the mayor's salary, accepting remuneration of $1.00 annually. He is considered a liberal Republican, who is pro-choice, in favor of legalizing same-sex marriage and an advocate for stricter gun control laws.
世界文化賞授賞式は10月18日、東京・元赤坂の明治記念館で行われ、受賞者に感謝状と顕彰メダル、賞金各1500万円が贈られる。
ところでスティーヴ・ライヒと言えば、先日、英ガーディアン紙に彼の新作の記事が出ていた。《Daniel Variations for four voices and instruments 》──パキスタンのカラチで誘拐され、アルカイーダと関係のあるとされるイスラム原理主義組織に首を斬られ殺害されたウォール・ストリート・ジャーナル記者ダニエル・パール(Daniel Pearl)についての音楽で、ライヒにとって最も「政治的な」作品だという。
- 'It's not a requiem' [Guardian]
Towards the end of their conversation, Judea presented the composer with a collection of Daniel's journalism as well as a book he and his wife had edited, entitled I Am Jewish. He had set up the meeting with Reich to explore the possibility of marking his son's life and death in music. "I had the impression he was the right composer." For Reich, who had been searching for his next work, a subject had miraculously dropped into his lap. "I said to him, 'I think you are carrying my text.' And of course he was. God sent him to give me my text."
Two years later, Daniel Variations, co-commissioned by the Daniel Pearl Foundation and the Barbican, receives its world premiere on October 8, the centrepiece of Reich's 70th-birthday celebrations. According to the composer, it marks another musical departure. "When the piece first begins, you might think: can this really be Steve Reich? It's much darker, not at all what I'm known for," he says.
Daniel Variations' first innovation comes from the fact that Pearl himself was a musician, playing the violin and mandolin: "He read music before he read English," says Judea. "He used the power of music to connect people in dangerous corners of the world." To reflect this, Reich has beefed up the string section of his ensemble. "Since Pearl was a fiddle player, I said let's have a full string quartet. Let's add a second violin and viola, and at that point, when his text comes in, the strings just take off." For the first segment of this text, Reich has taken Pearl's final words, spoken on video just before he was decapitated: "My name is Daniel Pearl. I'm a Jewish American from Encino, California."
ライヒ作品としては暗く陰鬱な雰囲気であるという。ダニエル・パール氏の処刑場面はVTRに録画され、公開された。彼の最後の言葉は「私の名前はダニエル・パール。私はユダヤ系のアメリカ人、カリフォルニアのエンシーノ出身」("My name is Daniel Pearl. I'm a Jewish American from Encino, California.")だった。その言葉が、他のライヒに見られるように、幾度となく、環状に渦巻きのように──loop and coil──繰り返される。ライヒはユダヤ系である。
ユダヤ人である自身のルーツへの旅がさらに新しい扉を開いた。ニューヨークとイスラエルでヘブライ語聖書の伝統的詠唱法を学び、詩篇を読んでいたときに自然に歌が聞こえてきたという。「言葉が生む旋律」に夢中になり、88年には肉声の音程に合わせ弦楽器のメロディーを反復させた「ディファレント・トレインズ」を発表。第二次世界大戦前後の米国とホロコースト(ユダヤ人虐殺)が主題だ。
「ホロコーストを音楽にするのは、太平洋を飲み干すようなもの。巨大すぎて不可能だと思いましたが、その場を生き延びた人たちの『言葉の旋律』がこれを可能にしてくれました」
[ダニエル・パールについて]
- A Selection of Daniel Pearl's Work [Wall Street Journal]
- Daniel Pearl: Seeker for dialogue [BBC NEWS]
- Daniel Pearl News [New York Times]
At Home in the World: Collected Writings from The Wall Street Journal (Wall Street Journal Book)
- 作者:Pearl, Daniel
- 発売日: 2002/06/18
- メディア: ハードカバー
I Am Jewish: Personal Reflections Inspired by the Last Words of Daniel Pearl
- 発売日: 2004/01/01
- メディア: ハードカバー
ダニエル・パール氏はヴァイオリン弾きであった。記者としても、ストラディヴァリの記事をはじめ、音楽の話題を数多く提供した。音楽を愛していた。そんなジャーナリスト=ミュージシャンのメモリアルとして、「Daniel Pearl Music Days」という基金も設立された。そのサイトにはエルトン・ジョン、ハービー・ハンコック、イダ・ヘンデルら著名な音楽家たちがメッセージを寄せている。合言葉は"Harmony for Humanity." 。
ダニエル・パール関連では、フランスの思想家ベルナール=アンリ・レヴィによる『誰がダニエル・パールを殺したか』が邦訳されている。
- 作者:ベルナール=アンリ・レヴィ
- 発売日: 2005/03/27
- メディア: 単行本
- 作者:ベルナール=アンリ・レヴィ
- 発売日: 2005/03/27
- メディア: 単行本
現在、このBHLの『Who Killed Daniel Pearl?』を原作とした映画が製作中。主演はジョシュ・ルーカス、監督はキップ・ウィリアムズだ。
Daniel Pearl movie starts filming this fall [MSNBC]
A movie based on a book about the slaying of Wall Street Journal reporter Daniel Pearl is scheduled to begin filming in the fall.
Beacon Pictures has signed Josh Lucas for the starring role. Kip Williams, who directed “Door in the Floor,” will helm the as-yet-untitled movie.
The film is based on the book “Who Killed Daniel Pearl?” in which French author Bernard-Henri Levy details his one-year investigation into the circumstances behind Pearl’s kidnapping and slaying in Pakistan in 2002.
[関連記事]
- ネット記者がダニエル・パール賞初受賞 [nikkansports]
ロサンゼルス・プレスクラブは7日、インターネット検索「ヤフー」にニュース映像を配信している戦争ジャーナリスト、ケビン・サイツ氏に対して、パキスタンで拉致、殺害された米紙ウォールストリート・ジャーナルの故ダニエル・パール記者の名前を冠した賞を授与すると発表した。ネット向けの記者の受賞は初めて。
サイツ氏は、ソマリアやコンゴ、イラクなどの戦地に赴き、デジタルビデオカメラで撮影した人々の生活や現状を編集してネット配信している。故パール氏の両親はサイツ氏について「真実を追求する姿勢が息子にそっくり」とコメントした。
故パール氏は、南アジアなどの特派員を歴任し、2002年に殺害された。同年、パール賞が創設された。
- 見えてきた911事件の深層 [田中宇の国際ニュース解説]
ISIのマフムード長官から依頼され、911事件の主犯格とされるモハマド・アッタに送金をしていたサイード・シェイクは、昨年2月に逮捕されている。逮捕容疑は、アメリカの新聞ウォールストリート・ジャーナルのダニエル・パールという記者を誘拐殺人したことである。パール記者は、911事件とISIの関係を深追いしようとして、逆にISIのエージェントと目されるサイード・シェイクらに誘拐されたという展開だった可能性がある。
パール記者誘拐事件もまた、非常に不可解な事件である。そもそも、誘拐の主犯はサイード・シェイクではなかったと思われる。パキスタン政府は、サイード・シェイクに対する一審判決が出た直後に「主犯は別におり、尋問中。サイード・シェイクは主犯ではなく、パール記者をおびき出す役目を果たしただけだ」と言い出した。
- Who really killed Danny Pearl? [Salon]