HODGE'S PARROT

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「beef up」のアレンジメント

スティーヴ・ライヒが世界文化賞を受賞したエントリーで触れた『ガーディアン』紙の記事。そこで使用されていた「beef up」という語が、なぜか頭に残っていた。以下がその該当部分である。

'It's not a requiem' [Guardian]

Daniel Variations' first innovation comes from the fact that Pearl himself was a musician, playing the violin and mandolin: "He read music before he read English," says Judea. "He used the power of music to connect people in dangerous corners of the world." To reflect this, Reich has beefed up the string section of his ensemble. "Since Pearl was a fiddle player, I said let's have a full string quartet. Let's add a second violin and viola, and at that point, when his text comes in, the strings just take off." For the first segment of this text, Reich has taken Pearl's final words, spoken on video just before he was decapitated: "My name is Daniel Pearl. I'm a Jewish American from Encino, California."

これは殺害されたダニエル・パール氏がヴァイオリン弾き(fiddle player)であったため、作曲者ライヒが、《Daniel Variations》を演奏するにあたって、アンサンブルにセカンド・ヴァイオリンとビオラを加え、弦セクションを「強化した」(beefed up)というものである。「beef」は言うまでもなく「ビーフ」(牛肉)に由来する。

実はこの言葉を最近目にした(耳にした)ような気がして、なんとなく気に掛かっていた。それを思い出した。ご存知、杉田敏の『ビジネス英会話』──NHKの人気ラジオ講座のビニェットだった。

2002年4月から2003年3月まで放映された「大滝怜治 編」。主人公、大滝怜治がニューヨークのPR会社ピアソンで活躍する姿を描いたビニェットで、その「beefed up」を目・耳にしたのだ。リアルタイムでは「大滝怜治 編」は、まあ、散発的にしか聴いていなかったのだが、NHK出版から一冊のCDブックとして編集されたものが出たので、ここのところ iPod に入れて通勤電車の中で繰返しループしつつ聴いていた。


場面は、ヘッドハンター、アンジェラ・ナッシュが、大滝に米国企業で働かないか、と打診の電話を入れるところから始まる。しかし大滝は昨年の9・11テロ事件のことを考え、躊躇する。そこでナッシュが応える。

I can understand that. However, New York has begun to bounce back by beefing up security in airports, individual businesses and on the streets.



”Lesson 1 Headhunter's Call” p.12

ニューヨーク市は、あの大惨事から立ち直り、空港や個々の企業、それに街頭での警備=セキュリティを「強化」(beef up)している──だからあまり心配しないで、というわけだ。


そういえば、スティーヴ・ライヒの《Daniel Variations》は、あの9・11テロ事件がなければ、起こらなかったであろう悲劇を音楽化したもの。明日は9月11日だ。


ちなみに「beef」は筋肉質の男性のことをも意味する。そして「beefcake」とは男性ヌードのことである。一方、「beef up」には「虐殺する」という意味もある。

Beefcake Postcard Book (Postcard Books)

Beefcake Postcard Book (Postcard Books)


付け加えるなら、杉田敏氏は「今回のビニェットから(”Headhunter's Call”)」で、「headhunter」という語について説明している。今日でこそ「人材スカウト」という一般的な意味を持つ「headhunter」は、もともとの意味は「首狩族」のことで、ビジネスの用語として使われたのは60年代後半のこと。しかし、最初は「derisive nichname」(愚弄するようなニックネーム)で、「body-snatching」(人さらい)とか「poching」(引き抜き、密漁)とか言われていたそうだ。
なんとなく、ポール・ド・マン的な比喩乱用を思い浮かべた。