- アーティスト: Arthur Rubinstein,Clara Haskil,Claudio Arrau,Robert Casadesus,Edwin Fischer,Walter Gieseking,Shura Cherkassky,Wanda Landowska,Alfred Cortot,Various Artists
- 出版社/メーカー: Membran
- 発売日: 2006/12/13
- メディア: CD
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Membran/ドキュメントから出ている『20 Famous Pianists』。
往年のピアニストの演奏を収録した20枚組のボックスセットで、まるで辞典のような重量感がある。解説も一冊の本のように充実しているし、ボックス、CD本体とも象牙の楽器をイメージした作り。録音もリマスタされていて、聴きづらくはない。むしろかなり良好な音だと思う。ヨーロッパの「職人」は良い仕事をしているなー。
この中の一枚がワンダ・ランドフスカ(Wanda Landowska, 1879-1959)の演奏。収録曲は、バッハの『半音階的幻想曲とフーガ』、クープランの『クラヴサン組曲』のいくつか、そしてモーツァルトのピアノ協奏曲22番。
中でもバッハの『半音階的幻想曲とフーガ』が素晴らしかった。もちろんランドフスカはチェンバロで弾いている。
しかしこのチェンバロが……「現代の」良好に調整/復元されたクラヴィーアではなくて、キツい金属音が轟く暴力的な楽器なのだ。しかもランドフスカは往年のピアニストよろしく、かなりロマンティックに熱情的にバッハを弾く。そして曲はクロマティック・ファンタジー。とくれば、その音楽には凄まじくも異様な熱を帯びるのは当然のこと。
そういえば、中村紘子はランドフスカの独特のステージマナーについて以下のように書いていた。
まず中央に置いてあるのがチェンバロであるのに異存はないとして、その左横にはランプが必ず置かれており、その他の舞台の照明は無きにも等しい、といった雰囲気が設定されていた。
そこに黒い髪を古風な束髪にまとめた小柄なランドフスカ女史が登場する。黒くてダブダブな、まるで邪馬台国の「貫頭衣」さながら一枚の布に頭を出す穴だけ開けたような衣装、ぺたんこのビロード製のバレーシューズ、という装いで、彼女は両手をまるでお祈りをしながら歩いているかのように胸の前で合せ、しずしずとチェンバロに向う。その歩みは、聴衆には五分もかかったかと思えるほどゆっくりしたもので、それを眺めているうちに聴衆は自分もコンサートというよりもなにか神聖な儀式に参列している、というような気分に陥っていくのだった。
中村紘子『ピアニストという蛮族がいる』(文藝春秋)p.35
神聖というよりも、魔術/呪術的。このランドフスカの『半音階的幻想曲とフーガ』には、魔性が秘めているような感じがした。