オランダ出身のチェンバロ奏者レオン・ベルベン(Léon Berben、b.1970)*1による、J.S.バッハのクラヴィーア曲集を最近よく聴いている。
- アーティスト: レオン・ベルベン
- 出版社/メーカー: Myrios Classics
- 発売日: 2010/11/24
- メディア: CD
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ヨハン・セバスティアン・バッハの作品の中で、僕のすごく好きな(聴くたびに熱狂させてくれる)《半音階的幻想曲とフーガ》BWV903 が収録されているので手に取った──大胆に、奔放に、情熱的に弾かれる幻想曲と、さらにドラマティックに弾かれるフーガは言うまでもなくとても気に入った。全般的にバッハのクラヴィーア曲はピアノ演奏の方が好きだったのだけど、このレオン・ベルベンの演奏を聴くと、チェンバロ/ハープシコードもやっぱりいいな、と思った。他にもBWV900番台を中心に、そしてあまり弾かれない、それどころか「deest」というBWV作品目録が編纂された後に発見された作品までも録音されていて、バッハ主義者*2への目配りも利いている。しかもよく見たら全曲、短調の作品でまとめられている──でもこれらバッハの短調の曲はどれも心地よく爽快だな。
とりわけ《幻想曲とフーガ イ短調》BWV944 がよかった。この曲、マルティン・シュタットフェルトの演奏でもよく聴いているのだが、全然違う曲に聴こえる。まるで新たな作品を発見したような、心理的な”BWV deest”というか……だってシュタットフェルトだとピアノ演奏ということもあるけど「幻想曲も含めて」演奏時間は4:49、一方、ベルベンだとフーガだけで5:30、そりゃ違う感じの音楽になってるよ。でもレオン・ベルベンの演奏は遅い感じはしない。というのもフーガのスタートこそ主題をカッチリと弾いているが、後半になってくると次第にアッチェランドさせ、和音を激しく鳴らし、格段に激しさが増す。こんな曲──まるでベートーヴェンの《熱情ソナタ》第三楽章のような──だったんだな、と聴き終わって爽快なカタルシスを得た。
これまで、何となく他の大量のバッハのクラヴィーア曲の中の似たような一曲でしかなかったBWV944 が、俄然、くっきりとした個性を放つ魅力的な作品になった。そして同時に、レオン・ベルベンについても──というのも実は僕が何年も前から持っているブリリアントのバッハ大全集で《平均律クラヴィーア集》を担当していたのが、ベルベンだった*3。このディスクを聴くまで155枚組のボックスセットの中に彼の名前は埋もれていたのだった……。
Youtubeにあがっていたレオン・ベルベンの動画。これもいい感じ、演奏も、楽器も。
The Legend of Willem Kroesbergen: Couchet
[関連エントリー]
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- J.S.バッハ《平均律クラヴィーア》第2巻第16曲
- シグナルからシンボルへ 〜 トッカータのフーガ(ホ短調、BWV914)より
- エマーソン・クァルテットの『フーガの技法』、そして……
*2:シューマニアーナやヘーゲリアンみたいな適当な言葉が浮かばないので、とりあえず「イズム」をつけてみた。twitterみたく「バッハ・クラスタ」でもいいのだけど。ま、バッハみたいな語法に心酔しているということ。
*3: