HODGE'S PARROT

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ジュディス・バトラーの入門書

現代思想ガイドブック「ラウトリッジ・クリティカル・シンカーズ」日本語版より、サラ・サリー著『ジュディス・バトラー』が出た。バトラー初の概説書だ。

ジュディス・バトラー (シリーズ現代思想ガイドブック)

ジュディス・バトラー (シリーズ現代思想ガイドブック)

イメージが表示されていないようなので(地味だからか?)、鮮烈で眩しいデザインが眼を引くオリジナル版も。
Judith Butler (Routledge Critical Thinkers)

Judith Butler (Routledge Critical Thinkers)


難解と言われ忌避されがちなバトラー。だが、この「入門書」によって、『ジェンダー・トラブル』のみならず「バトラー・トラブル」も少しは解消されるだろう(もちろん自分に語っているのだが)。
とりあえずゲイの皆さんは必読!



バトラー様のレゴ。

それと本書の竹村和子の「訳者のあとがき」によると、来年2006年1月、お茶の水女子大学二十一世紀COEプログラム「ジェンダー研究のフロンティア」がバトラーを招聘し、講演会を開くそうだ。バトラー初来日か!


ジェンダー・トラブル―フェミニズムとアイデンティティの攪乱

ジェンダー・トラブル―フェミニズムとアイデンティティの攪乱

触発する言葉―言語・権力・行為体

触発する言葉―言語・権力・行為体

アンティゴネーの主張―問い直される親族関係

アンティゴネーの主張―問い直される親族関係

偶発性・ヘゲモニー・普遍性―新しい対抗政治への対話

偶発性・ヘゲモニー・普遍性―新しい対抗政治への対話


ところで、この「バトラー本」と同時発売が──まるで図ったように──トニー・マイヤーズ著『スラヴォイ・ジジェク (シリーズ現代思想ガイドブック)』。アマゾンでも「この商品に興味がある人は、こんな商品にも興味をもっています」と両者対になっている。ま、この「ジジェク本」も一緒に買ったんだけど。

で、ジジェク本をパラパラとめくっていたら、スラヴォイ少年のことが書いてあって眼を引いた。それによると10代の彼は、英語文学、とくに探偵小説ばかり読んでいたそうだ。
そういえば僕が『斜めから見る』の存在を知り、それを熱心に読んだのは、何よりも推理小説について書いてあったからで、しかも(当時)熱狂的なファンだったマーガレット・ミラーを始め、ルース・レンデルやパトリシア・ハイスミスといったサスペンス系の作家にさかんに言及していたからだ。

アガサ・クリスティの『オリエント急行殺人事件』は、ある巧妙な例外によって、このことを例証する。この作品では、殺人は容疑者全員によって犯される。そしてまさにそのために、彼らは有罪ではありえない。それで、逆説的だが必然的な結果として、犯罪者と犠牲者が一致する。すなわち殺人は当然の処罰だったのである。




スラヴォイ・ジジェク『斜めから見る』(鈴木晶訳、青土社)p.328

もちろん、戦後型「犯罪小説」は考察の対象から外した。その種の小説では、関心の的が、(「知っているはずの主体」)としての、あるいは一人称の語り手としての)探偵から、犠牲者(ボワロー=ナスルジャック)あるいは犯人(パトリシア・ハイスミス、ルース・レンデル)へと移行している。そうした移行の必然的結果として、語りの時間的構造全体が変わってくる。物語は「ふつうに」線的に語られ、犯罪の前に起きることに力点が置かれ、犯罪がもたらす結果や、犯罪にいたる出来事の流れを再構成する企てにはもはや力点は置かれない。


ボワロー=ナルスジャックの小説(たとえば『ディアボリーク』)では、物語はふつう未来の犠牲者の視点から語られる。たとえば一人の女の身の上に不思議なことが起き、恐ろしい犯罪を予告しているように思われるが、その通りなのか、それともそれらはすべて彼女の妄想にすぎないのか、われわれには最後までわからないようになっている。


それとは対照的に、パトリシア・ハイスミスの作品では、ありとあらゆる不測の事態や心理的な行き詰まりから、一見「正常な」人間が殺人を犯すにいたる。


(中略)


ちなみに、マーガレット・ミラーの傑作『ビースト・イン・ヴュー』(狙った獣)は、この「犠牲者」小説と「犯罪者」小説の対立の興味深い一例で、そこでは病的な人格の分裂のために、犯人がその犯罪そのものの犠牲者であることがわかる。




スラヴォイ・ジジェク『斜めから見る』p.328-329

なかでもパトリシア・ハイスミスは、ジジェクが頻繁に言及し、解釈し、援用するミステリ作家として、断トツの地位にある。そしてハイスミスは『リプリー』や『スモールgの夜』(大文字のGではないんだね)といった作品を残していることからもわかるように彼女はレズビアンとしても有名であった。未訳だが『The Price of Salt』(Carol)というレズビアン小説も1950年代にすでに発表されていた。

The Price of Salt

The Price of Salt

Beautiful Shadow: A Life of Patricia Highsmith

Beautiful Shadow: A Life of Patricia Highsmith

Highsmith: A Romance of the 1950's

Highsmith: A Romance of the 1950's


しかし一方でハイスミスは『女嫌いのための小品集』(Little Tales of Misogyny)といった反フェミ的な──反フェミが享楽するであろう──作品もモノにしている。ジジェクとバトラーとのアンビヴァレントな関係も、こんなところにあるのかもね。

Little Tales of Misogyny

Little Tales of Misogyny

Nothing That Meets the Eye: The Uncollected Stories

Nothing That Meets the Eye: The Uncollected Stories

Small G: A Summer Idyll

Small G: A Summer Idyll

狙った獣 (創元推理文庫)

狙った獣 (創元推理文庫)

眼の壁 (小学館文庫)

眼の壁 (小学館文庫)

求婚する男 (角川文庫)

求婚する男 (角川文庫)

リプリー (河出文庫)

リプリー (河出文庫)

スモールg(ジー)の夜 (扶桑社ミステリー)

スモールg(ジー)の夜 (扶桑社ミステリー)

女嫌いのための小品集 (河出文庫)

女嫌いのための小品集 (河出文庫)