HODGE'S PARROT

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戦争の常識

概念の無制限性と絶対性とに代わって現実活動の蓋然性が問題になる

相闘う両者が単に純粋な概念上のものではなく、具体的な国家なり政府であるとすれば、そしてまた戦争が単に観念的行動ではなくて特色ある実際行動の経過以外の何ものでもないとすれば、以上に述べてきた現実活動の諸事実のみがよく未来における未知なるものを推測する材料たり得るであろう。
つまり戦争当事者はそれぞれ敵の性格・設備・状態・諸関係等に基づき、蓋然性の法則に従って相手の行動を推測し、それに応じて自分の行動を決定するものである。


クラウゼヴィッツ戦争論』(清水多吉訳、中公文庫)

トルストイによって「戦争」と「平和」の二項対立が<脱構築>されてしまったが、しかしとりあえず「平和」をより詳しく知るために(定立)、「戦争」を知っておいても(反定立)、いいだろう(総合)。

というわけで、鍛冶俊樹の『戦争の常識』(文春新書)。多分「戦争関連用語」の解説書としては、今のところ最新のものだと思う。
8つの章からなり、それぞれ「国防の常識」「軍隊の常識」「兵隊の常識」「陸軍の常識」「海軍の常識」「空軍の常識」「現代戦の常識」「自衛隊の常識」。戒厳令から兵器、軍隊の階級、そしてミサイル防衛(MD)まで簡便に概説されており、カヴァーにあるようにこの一冊で「ニュースが身近になる」はずだ。
欲を言えば、基本用語にはすべてアルファベット(英語/原語)があれば、と思った(いくつかの言葉には英語が併記されている)。

興味深い「常識」をひとつ挙げたい。それは「徴兵制」についてある。著者は「国防(意識)」と「社会」という観点を交え、徴兵制について──志願兵制と比較しながら──論じているが、しかし実際の「軍」は徴兵制自体を望んでいないということだ。理由はすこぶる単純で、軍が必要としているのは、素人ではなくて専門家だからだ。
また忘れてならないのは、徴兵制はフランス革命の所産であること。

日本では徴兵制というと非民主的に捉えられがちだが、フランスではむしろ逆である。王侯貴族や傭兵の独占物だった軍隊を広く一般社会に開放したのが徴兵制だと考えられている。
従って軍人を職業化するということは、軍隊を再び一部のエリートの独占物にしかねない危険な試みだと批判されることになる。


p.92

戦争の常識 (文春新書)

戦争の常識 (文春新書)