HODGE'S PARROT

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『愛する者よ、列車に乗れ』 Ceux Qui M'Aiment Prendront Le Train/1998/フランス 監督パトリス・シェロー

ラスト、カメラが上空から幾何学的な形態の墓地をすうっと駆け抜け、そこにマーラー交響曲10番が流れる──それだけで、もう、感無量だ。
死んだ画家が残した「私を愛する者はリモージュ行きの列車に乗れ」という、謎めいた遺言に従った人々のドラマは、それぞれが決して幸福な解決には至らないが、同性愛者、異性愛者の登場人物を冷ややかに見つめながら動き回るカメラの視線、そのあまりに冷淡でありながら、あまりに美しい映像には息を飲む。様々なムードを醸し出す音楽を背景に映し出される、(まさに!)流れるような映像美に、まったく陶然とさせられる。

実を言えば、ストーリーはあまりよくわからない──というより「ミステリー的」な解決を期待するのを途中で断念した。何よりこの群像劇風の映画はあまりに「音楽的」なのだ。
窮屈そうな列車で繰り広げられる男と男、男と女のドラマ──アンサンブルは、アンチ・ロマンであり、とても物静かに、冷ややかに進行する。フランス映画らしいといえばそうであるが、これほど冷淡なトーンでありながら、どこか優しい響きも感じられ、言葉に言い表せない不思議な感動を呼ぶ。まるで音楽を聴いたときのように。

そして不思議な既視感にも捉えられた。多分それは、美青年シルヴァン・ジャック演じるブリュノの姿に関係する。彼はHIV感染者という設定であるが、その物憂げなルックスに、かつて『傷ついた男』で監督パトリス・シェローと共同で脚本を書いた作家のエルヴェ・ギベール──91年にエイズで亡くなった──の姿が二重映しになってしまうからだ。