フランシス・キングの『家畜』(横島昇 訳) が、みすず書房から出た。
- 作者: フランシスキング,Francis King,横島昇
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2006/04/07
- メディア: 単行本
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イギリスの作家フランシス・キング(Francis King, b.1923)の邦訳は、『フローズン・ミュージック』(飯田隆昭 訳、福武書房)以来ではないだろうか……と思っていたら、『日本の雨傘』が河合出版から、『E.M.フォースター評伝』がみすず書房から出ていた。
それにしても、『家畜』(A Domestic Animal)が邦訳されて、とても嬉しい。なにしろ『A Domestic Animal』は、ペーパーバックでは「Gay Men's Press」から出版されていることからもわかるように、同性愛が主題になっている小説なのだ。もちろん作者フランシス・キングは、ゲイであることをカミングアウトしている。
- Francis King [Wikipedia EN]
Francis Henry King (born 1923) is a British novelist and short story writer, and a poet.
He was born in Adelboden, Switzerland and brought up in India. He was educated at Shrewsbury School and Balliol College, Oxford. During World War II he was a conscientious objector, and left Oxford to work on the land. After completing his degree in 1949 he worked for the British Council; he was posted around Europe, and then in Kyoto. He resigned to write full time in 1964.
He came out as a homosexual in the 1970s; in Yesterday Came Suddenly (1993), after his longterm partner had died from AIDS in 1988, he described the relationship. Suffered a stroke in 2005.
上記の経歴にも書いてあるように、フランシス・キングはブリティッシュ・カウンシル(英国文化振興会)に勤め、その関係で日本にも滞在した。親日家としても名高く、日本を題材にした作品や、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)に関する論説も発表している。
そして重要なのは、彼が三島由紀夫の知遇を得たことである。キングは三島文学から多大な影響を受けた。
日本とキング文学の関係について詳しいのが『家畜』の翻訳者、横島昇氏の著書『フランシス・キング 東西文学の一接点』(こびあん書房)である。キングは「日本の美学からもっとも多くを学んだと公言して憚らぬ作家」だという。
とくに「フランシス・キングと三島由紀夫」と題された論説では、三島の『禁色』とキングの『家畜』を比較分析しており、とても興味を惹く。
アントニオを取り巻く『家畜』のトムソンやパム、悠一を取り巻く『禁色』の鏑木夫人や恭子は、自分の美青年に対する情熱が自発的なものであり、相手を思う己の気持の高まりが男の面立や肉体の美しさだけに起因していると信じている。
無論、彼等は自分が慕う当の若者が、他の人間の情熱の対象になっていることを知っているが、己の欲望が他人の介入に先んじていると信じて疑わない。が、これは決して真実を語っていない。恋の虜になった者たちは、自分の情念のからくりに気付いていないのである。人間の欲望は自発性という言葉を知らない。この怪物を解剖して、人がその中に見つけるのは模倣という言葉だけである。
美青年をめぐるこれらの人々は、互いに自分たちの恋敵の欲望を模倣しているにすぎない。彼等の情念は能動的なのではなく受動的なのだ。トムソンはパムの欲望によってアントニオを欲望させられ、パムはトムソンの欲望によって青年を欲望させられているのだ。悠一を取り巻く女たちの事情もこれと全く同じである。
横島昇『フランシス・キング 東西文学の一接点』p.34-35
Domestic Animal (Gay Modern Classic)
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またキングは、三島について、こんなことも語っている。
キングは1990年、早稲田大学教授池田雅之氏と行った『日本文化の豊饒性』と題する対談において、「三島は非常に劇的な人生を送り、劇の中の役をみずから演じたりしました。私は、そうではありません。私はいつも自分自身です。三島は、自分自身を作った男です」と言っている。
「自分自身を作った」というのは、三島のボディ・ビル等による「肉体の改造」を念頭においてのことであろうが、ここはより正確には、「演技した」と言うべきであろう。
『フランシス・キング 東西文学の一接点』p.230-231
- 作者: 横島昇
- 出版社/メーカー: こびあん書房
- 発売日: 1995/04
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E.M.フォースター評伝 (E.M.フォースター著作集 別巻)
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