僕は、ルネサンスのイタリア芸術──つまりミケランジェロ至上主義者であるのだけれど、パリに行く直前に木俣元一 他『パリ 中世の美と出会う旅』(新潮社)を読んで*1、中世美術に心ときめいた。*2。
この本で紹介されている場所はぜひ訪れなくては、と心に決めた。
そして行ってきた──クリュニー中世美術館(Musée national du Moyen Âge、Musée de Cluny)へ。
そこにはサン・ミッシェル大通り、カルチェ・ラタンの喧噪を物ともしない超然とした建造物が建っていた。
よく見るとその建物には怪しげな装飾が施されていた。まるで化け物屋敷のような趣──それが、まるで子供のころ遊園地のお化け屋敷に入る時のようなワクワクとした気分にさせてくれる。
恐る恐る十字を切って(嘘)、中へ入った。
化け物屋敷の内部は……聖なる空間が広がっていた。中世のキリスト教美術を中心にした作品が数多く陳列されていた。光に満ちていた。そこにはキリスト教のセレブたちが勢揃いしていた。
セレブの(最初の)一人、アダムもまるでサウナ室(ローマ時代の風呂=「テルマエ・ロマエ」)で身体を伸ばしているような感じw
木俣元一氏によれば、このアダム像には「原罪」という否定的なニュアンスが見られないという。明るく肯定的なニュアンスに満ちた最初の人間。
明るい部屋についての覚書ばかりではなく、暗い部屋についても──もちろん暗い部屋の写真も撮ってきた。ステンドグラスが飾られている部屋がそうだ。
普段は教会の遥か上部にあるステンドグラスも(じっくり見る場合には双眼鏡で一つ一つの物語を追っていかなければならない)、ここクリュニー美術館では目の高さの位置に展示されていて、じっくりと連続した聖書の物語を鑑賞=読むことができた──そして思った、これら聖書の物語が描かれたステンドグラスって、なんだか聖書を題材にした中世のマンガみたいなものなんだな、と。
そしてクリュニー中世美術館といえば、15世紀ぐらいに作成されたあまりにも美しく魅惑的なタペストリー『貴婦人と一角獣 The Lady and the Unicorn』──五感を表現した「視覚」、「聴覚」、「味覚」、「嗅覚」、「触覚」、そして「望み」と題されたの計六帳が掲げられている展示室がある*3。その部屋は照明が落とされており、暗い。だから、それらタピストリーに近づいて、見る。すると艶やかな色彩が目の中に入ってくる。
とにかくユニコーンが可愛い。そのつぶらな瞳、その仕草が。
ユニコーンだけじゃなくて、散りばめられた草花のあちこちに描かれた犬やウサギ、山羊なんかもとってもキュートだった。
↓が謎めいた作品、「望み」(欲望のままに、自由意思によって、by my will alone)だ。
私のただひとつの望みに - A mon seul désir
いずれにせよ(私自身、私の動機、私の幻想がどのようなものであるにせよ)、わたしはそこで繊細に暮らしたいと思う。
Flickr にも写真をアップしてある。
*1:
*2:他にも木俣元一氏による「中世本」──『フランス ゴシックを仰ぐ旅』や『フランス ロマネスクを巡る旅』、『図説 大聖堂物語―ゴシックの建築と美術』といったガイドブック的なものから、『芸術のトポス ヨーロッパの中世』、『シャルトル大聖堂のステンドグラス』など重厚な研究書が出ているようだ。すべてに目を通したくなる──とくに高価でとても買えない『シャルトル大聖堂のステンドグラス』を見てみたい。
*3:このタペストリーは小説家ジョルジュ・サンドが「発見」し、それによって広く知られるようになった。またトレイシー・シュヴァリエもこれらの作品にインスパイアされた小説『貴婦人と一角獣』を書いている。
そして日本では中公文庫版のホイジンガ『中世の秋』のカヴァーで、このタペストリーが使用されていることは言うまでもないだろう。
*4: