UYYY YRRY! 面白い。すごい読書をしたって(している)感じだ。遅ればせながら──そう、例えば「新訳」でドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を初めて読んで大騒ぎしているような───荒木飛呂彦に開眼した。
- 作者: 荒木飛呂彦
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- 発売日: 1987/08/10
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ただ、マンガについて書くのはどうも苦手だ。というのも、それはストーリー/内容云々以前に、僕の場合は「絵」の好き嫌いがはっきりしていて、絵をちょっと見ただけで、その作品を読み続けるかどうかの判断になってしまうからだ。つまり、絵の好き嫌いが、僕にとっての、その作品の良し悪しになる。小説ならば「文体」がそれに近いかもしれない。どれほど「良い話」であろうと──世評高い作品であろうと──「絵」や「文体」が気に入らなければ、それは僕にとって「気に入らない作品」であり、したがって読めない/読み通せないマンガ/小説なのだ。
ジョジョは、まず、その絵に魅了された。眉目秀麗で、そしてまるでミケランジェロ作品のような強靭な肉体を持つ登場人物たちが、力強く迫力のあるタッチで描かれる。さらにマニエリスム絵画のような優美な身体の「ねじれ」、大胆で強烈なインパクトを与えるポーズ、錯視を催すデフォルメ、豪奢な衣装──コスチューム……に眼を奪われる。その作図に、何にもまして衝撃的なまでの素晴らしい表現を感じた。
ストーリーは壮大だ。吸血鬼やゾンビらとの凄絶な戦い。アクションに次ぐアクション。「波紋」なる超物理学的な肉体操作法。このマンガには面白さがぎっしりと詰まっている。むろん、そのエキサイティングな「内容」は視覚を通して伝わってくる。
舞台は英国。主人公ジョナサン・ジョースターは貴族で、その高潔な精神が「人間らしさ」を代表している。彼とその仲間が下劣な悪鬼と対峙し、さまざまな試練を乗り越えながら、彼らの「高貴さ」──人間らしさ──が、屍生人(ゾンビ)に勝利していく。まさに美徳と悪徳の戦いである。
ここでの「人間らしさ」とは、「痛み」を感じることだ。屍生人(ゾンビ)は「痛み」を感じない。痛みを感じない屍生人(ゾンビ)は徹底的に醜い──だから「人間らしさ」を取り戻した黒騎士ブラフォードは、美しく(再び)死んでいく。
この「痛み」こそ「生」のあかし
この「痛み」あればこそ「喜び」も感じることができる
これが人間か……
奇妙なやすらぎをおれは今感じる
もうこの世への恨みはない…
こんなすばらしい男に
こんなあたたかい人間に
最後の最後に出会えたから…
黒騎士ブラフォードのセリフ
さらにジョナサン・ジョースターに「波紋」を伝授したツェペリ男爵も高貴な死を迎えるのだが、その場面で引用されるサッカレーの言葉が実に印象的で、心揺り動かされた。
愛してその人を得ることは最上である…
愛してその人を失うことはその次によい。
読みながら、「Being Beauteous」(美しくあること)というアルチュール・ランボーの詩を思い出した。
いちめんの雪を前にして、丈の高い美の実在。死のざわめくさまざまな音と、こもるような音楽のいくつもの円が、崇拝される肉体を、立ちあがらせ、太くさせ、そして顫えさせる、まるで、化物のように。素晴らしい肉のふくらみのなかに、真紅であって黒い傷口がきらめく。台架のうえ、その眼に見える姿のまわりでは、生命に固有なさまざまな色彩が、濃くなり、踊りまわり、鮮やかに浮きでてくる。
かくて、戦慄は高まり、唸りをあげる。そうした効果に夢中になった味わいは、世界がぼくたちの背後から、ぼくたちの美の母親めがけて投げかける、死のざわめきや嗄れた音楽で溢れるようにふくらむが、そうなると、──彼女は後づさりし、ついで、彼女は立ち上がるのだ。
おお! ぼくたちの骨は、新しい愛の肉体をふたたび着せられる。
- 作者: アルチュールランボー,Arthur Rimbaud,清岡卓行
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