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傭兵は悪しき兵器にほかならない



アントニオ・ネグリマイケル・ハートの『マルチチュード』には、アメリカ軍が「民間軍事請負業者」に依存していることへの批判がある。

  • 契約によって採用される民間の軍事専門家は……兵役に伴う公的な説明責任を負うことはない
  • こうした契約関係が増えることによって、金で雇われた軍事支援者と、金で雇われた兵士、すなわち傭兵との区別はつきにくくなる
  • もはや米軍を『武装した人民』ととらえることは不可能である


最初読んだときは、読み飛ばしていた部分であるが、最近のブラックウォーターUSA/Blackwater USA 関連のニュースを見るにつけ再読しておきたくなった。

いちおうブラックウォーターに関しては、Democracy Now! JAPAN で「ブラックウォーター 世界最強の傭兵軍の勃興」という日本語字幕つきの映像があるので参照のこと。ジャーナリストで『Blackwater: The Rise of the World's Most Powerful Mercenary Army』の著者でもあるジェレミー・スケイヒル/Jeremy Scahill が、この民間軍事会社の問題を簡潔に伝えている。


このスケイヒル氏の指摘でとくに気になったのが、ブラックウォーターUSA社のオーナーであるエリック・プリンス/Erik Prince がキリスト教右派とつながっており──すなわちゲイの権利否定の要因であり──ブッシュ「保守」共和党政権を支えていることだ。

Erik Prince interned in George H.W. Bush's White House, but he complained that it wasn't conservative enough for him on gay issues, on the balanced budget, on the environment. He also was an intern for the conservative California Congressman Dana Rohrabacher, a man who, after leaving Reagan’s staff as an advisor and speechwriter, went over to join the Mujahideen in Afghanistan before beginning his congressional term.




Blackwater: The Rise of the World's Most Powerful Mercenary Army


ブラックウォーター社の会長、米議会で証言 [AFP]

米政府と契約した営利企業の戦場での役割に関する議論と同社に対する一連の調査が行われる中、民主党は、米政府と10億ドル(約1150億円)の契約を結んでいるとされる同社を、裁判にかけようとしている。


 政府のある報告書によると、イラクで外交関係者や要人の警護を請け負っている同社は、2005年以来200件近くの銃撃事件に関与し、それを隠ぺいしているという。


Blackwater: Shadow Army


ブラックウォーター事件、目撃者2人が惨劇を語る [CNN]

米警備会社ブラックウォーターUSAの従業員が先月16日、イラクの首都バグダッド市内の銃撃戦で民間人を死亡させた事件で、当時現場で交通整理をしていたイラク人警官が1日、CNNに対して、民間人に発砲したブラックウォーターの警備員らが「テロリストに攻撃されていないにもかかわらず、テロリストと化した」と語った。

マルチチュード 上 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス) <帝国>の貴族層と傭兵との関係は時に親密であり、時にきわめて疎遠である。最大の不安は、傭兵隊長がいつか帝国の貴族層に反旗を翻すのではないかということだ。サダム・フセインイスラム教国イランの脅威に対して「スイス擁護兵」の役目を果たしたあとでそうしたし、ウサマ・ビン・ラディンアフガニスタンソ連から解放したあとでやはり反旗を翻した。


マキアヴェッリによれば、傭兵が権力を握ることは共和国の終わりを意味する。傭兵による指令は腐敗と同じ意味になる、と彼は言う。傭兵が今日のグローバルな<帝国>に対して反乱を起こす可能性はあるのだろうか。それとも傭兵たちはただ支配体制に同化し、それを支える役目に甘んじるだけなのか。
マキアヴェッリは良い軍備のみが良き法律をもたらすと教えている。すなわち、悪しき軍備──マキアヴェッリによれば、傭兵は悪しき兵器にほかならない──は悪しき法律をもたらすということになる。言いかえれば、軍の腐敗は政治秩序全体の腐敗を招くのである。




マルチチュード  <帝国>時代の戦争と民主主義』(幾島幸子 訳、NHK出版) p.101-102

Blackwater: The Rise of the World's Most Powerful Mercenary Army

Blackwater: The Rise of the World's Most Powerful Mercenary Army