ナチズムは、おそらく、血の幻想と規律的権力の激発との最も素朴にして最も狡猾な──そしてこの二つの様相は相関的だったが──結合であった。社会の優生学的再編成は、無際限な国家管理の名にかくれてそれがもたらす<極小権力>の拡張・強化と相まって、至高の血の夢幻的高揚を伴っていた。
「パリで同性婚を阻むもの 差別知」で触れた、川原泉の「取り巻き」の発言。差別を「正当化」するために、「種の原理」が発動されることは、注目していい。これこそが優性思想が抱くモチーフそのものだからだ。
繰り返そう。
まあ、世の中全て同性愛者になっちまうと、
今度は「種の保存」はどーなる、という問題が出てきますけどね。
人工授精またはクローンしか成り立たなくなるし、
それはそれでまた生命倫理的にどうなのかと。
人工的にしか子孫を残せなくなった時点で、
人間は生物種として「弱い種」「滅び行く種」ということになるのかな、とは思います。
そう言う意味では同性愛は生物の本能に反した存在であるとは思います。
#雌雄同体だったらよかったのかも?
ただ、理解されないとか批判されていることについて同情する気もありません。
だって批判されるのわかってて行動してるんでしょう?
「個人同士はお好きにどうぞ」
「ただ、種として考えるとあんまり増えるのはヤバイんでないの?」
「同情はしないよ、せいぜい生暖かい目で見守るくらいかな」
これが管理人の同性愛に対する基本的な考え方です。
この人物は、川原泉のヘイトスピーチ、差別語、蔑称の使用への異議申し立て=クレイムに対し、「種の原理」を持ち出す。「種の原理」を導入することによって、差別を「正当化」しようとする。
では、この人物は、いったい何を語っているのか? 何を目論んでいるのか。この人物が持ち出す強烈なイデオロギーは何か。
これは人間の種に、「よい種」と「悪い種」という区別を導入することによって、人間という種全体を、死ぬべく定められた人間と、生きるべく定められた人間に分割することである。
優性思想的差別発言に対する異議申し立ての返答が、このような優性思想そのものの身振りとして──強化され──現れる。「弱い種」「滅び行く種」という発言に集約される──自分(たち)と他者に分割を入れること。これが、川原の「取り巻き」が有している、素朴で、狡猾で、激発な思考回路なのである。差別を「正当化」させるために編成-再編成される至高の「血」の夢幻──すなわち「種」。
この「思考回路」が、どれほど「恐ろしい」ものなのか。どれほど「恐ろしい」帰結を招いたのか。なぜ、私たちは、このことを忘れてしまうのだろう。
隣人は普通に生き続けるのに、自分は故のない身体的かつ生物学的な理由で殺戮される。人種差別とは、種の空間を細分化し、その一部だけを「特別待遇」することである。
フーコーは、近代のバイオ・パワーにおいてこの人種差別が必要とされたのは、住民を細分化することによって、殺す原理を導入するためであったと考えている。他者を多く殺すほど、自分の生が確保できるという戦争の原理そのものは、新しいものではない。
人種差別の新しさは、人々を生かすことを支配の原理とする生-権力の社会に、殺す原理を持ちこんだことにある。人種差別が近代の社会にいたるまで存在しなかったというのではなく、近代の生-権力の社会にいたって、国家の政治的な機構において、人種差別が枢要な役割を果たしはじめたのである。
第二次世界大戦におけるナチズムのユダヤ人差別、明治以来の日本での朝鮮人差別、米国における日系移民の差別に示されるように、人種差別とは身体的で生物学的な根拠に基づいて、他者を殺戮し、貶め、屈辱を味わわせる原理である。人種差別によって、他者に死をもたらし、「悪しき種」を滅ぼし、「劣った種」や「異常な種」を絶滅すれば、われわれの生そのものがさらに健全で、<純粋>になると考えるのである。
『フーコー入門』p.178
どこまでも「異性愛を特別待遇する」姿勢──「世の中全て同性愛者になっちまうと」と言いながら、自分だけは「同性愛者」=「弱い種」「滅び行く種」ではなく、あくまでも異性愛者として、異性愛者のままで、安全な地帯から、つまり「優れた種/生きられる種」として、生-権力を発動する。
そして中でも一番の問題は、「世の中全て同性愛者になる」という「架空の概念」(この者は別の文脈でSF的と語った)を駆使して、「種として考えるとあんまり増えるのはヤバイ」と訴える。脅し──威嚇である。これである。
「ヤバイ」と、素朴に、狡猾に、直情的に、訴えて、いったいどんな「原理」を導き出そうとしているのか。誰が「ヤバイ」のか。誰にとって「ヤバイ」のか。
フーコーはナチズムが、バイオ・パワーという生-権力の国家において初めて可能になった権力であることを強調している。ナチズムの特殊性は、生かす権力の社会に登場しながら、アーリア人の血の純粋性という架空の概念に基づいて、国民の中に純粋でない部分を排除するという方法に頼ったことにある。他の人種を破壊しながら、ドイツ国民そのものを破壊していった。
『フーコー入門』p.180
なぜ、「架空の概念」を持ち出して──持ち出してまで、差別への意志を貫こうとするのか。しかも、同性愛者だけではなく、人工授精や、雌雄同体(インターセックスか)にまで、その射程を拡げ、「倫理的責任」の拡大・拡張・強化を図る。
そして「ヤバイ」と、まるで他人を気遣うような、「人類を代表」しているかのような、「利他的」な振舞いを装う。もちろん、言うまでもなく、この「偽りの利他性」が、「人を殺す」権力の巧妙さなのである。
この権力はなによりも信徒の魂の幸福を気遣う利他的な権力であるかのように装う。しかしこの司牧者は、もはや羊たちの幸福を本来の目的としていない。来世における魂の救済という<飴>によって、羊たちをみずからの支配下におくことを目的としているのである。
(中略)
「この稀有な牧者、彼は自分の病める羊たちをまったく親切に守ってやる」、しかし彼は「傷の痛みを鎮めながら、同時に傷口に毒を塗るのだ」と。
『フーコー入門』p.194
同性愛者は現に存在している。人工授精によって生まれた子どももたくさんいる。人工授精で子どもを生んだ親も多くいる。
なぜ、おまえが、それらの人々に対し、「倫理的責任」を負わせるんだ?
おまえは、異性愛者というだけで、それほど「優れた/優性な」人間なのか?
なぜ、他人の「劣等性/劣った種」を、それほどまでに夢幻的高揚を持って、説くんだ?
おまえの「威嚇」は、何を「意味する」んだ?
二十世紀の政治悪は、何千、いや何百万という普通の個人が加わることがなければ実行されえなかったであろう。あるいは、制度面で体制がある程度整ったあと、その社会全体に共謀の意識が広がることがなければ起こりえなかったであろう。これらの基本的事実を直視すれば、「戦争犯罪」を裁く法廷がたとえいくつ設置されてきたにせよ、政治悪に対する道徳的責任という考え方のまさに存立自体そのものが脅かされているように思われる。
アイヒマンの正常さは「恐ろしい」。というのも、究極の悪事が行われるのに別に怪物がいなくてもいいという事実をまずわれわれに突きつける。のみならず、自分の任務を遂行したあとで責任を転嫁するという、ぎりぎりの環境においてさえも発露される「人間的な、あまりに人間的な」傾向が浮かび上がるからである。
川原泉が、「倒錯」という<差別語>を使用するのは、「優性種」から「弱った種/劣った種」への当然の「振る舞い/権利」だと言うのか。<蔑称>を平然と使用するのも同じ理由か? それがおまえの「説明」か?
川原泉の「取り巻き/親衛隊」だから、このような優性思想を、平然と、吐くことができるのだろうか。それとも、このような人物だからこそ、川原泉の「取り巻き/親衛隊」なのだろうか。
どのような共謀の意識が、彼らを結びつけているのか。差別への意志は、どのように、共有されているのか。素朴で、狡猾で、激発な、優生学的断言を。
医学では、細菌やウィルスを「殺戮し、がん細胞を殲滅する」という言い方をしてますね。こういう考え方が、戦争を論じる言説の中に反映され、「あいつはがんだから除去していい」とか「ばい菌だから殺していい」という話になっています。
権力の関係は、意図的であると同時に、非-主観的であること。事実としてそれが理解可能なのは、それを「説明して」くれるような別の決定機関の、因果関係における作用であるからではなく、それが隅から隅まで計算に貫かれているからである。一連の目標と目的なしに行使される権力はない。
フーコー『性の歴史Ⅰ 知への意志』p.122
人工的にしか子孫を残せなくなった時点で、
人間は生物種として「弱い種」「滅び行く種」ということになるのかな、とは思います。
そう言う意味では同性愛は生物の本能に反した存在であるとは思います。
「ただ、種として考えるとあんまり増えるのはヤバイんでないの?」
この人物は、恐ろしい。
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