『クーリエ・ジャポン』(6.15/2006#014号)の特集に「アメリカ”最後のタブー” イスラエル・ロビー「陰の権力」」(The United States of Israel ?)という記事が載っている。興味深く読んだ。
COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2006年 6/15号
- 出版社/メーカー: 講談社
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英『インディペンデント』紙の中東特派員ロバート・フィクス(Robert Fisk)の記事で、アメリカの二人の国際政治学者がイスラエル・ロビーの活動を批判する論文を学術誌の発表したところ、親イスラエルの学者やメディアから激しい反発を喰らっているそうだ。
ハーバード大学ケネディー行政大学院教授スティーヴン・ウォルトと、シカゴ大学政治科学学部教授ジョン・ミアシェイマーの両氏が指摘したのは、アメリカの外交政策はイスラエル・ロビー*1に仕切られており、それによってアメリカの国益を損なっている、というもの。
その真偽に関しては留保したいが、問題は、「中東問題を議論できない」というエドワード・サイードの言う「最後のタブー」という風潮が、アメリカの学者やメディアの間に浸透している、という事態だ。議論しようとすると、「反ユダヤ主義」というレッテルを貼られ、見当違いの批判が繰り返される。ロビー団体は、イスラエルに批判的な学者などを監視している。
ただし「アメリカにおいては」というのが重要なのであって、こういったタブーの風潮が、米国のリベラル派ユダヤ人を動揺させていることは注記しておきたい。
例えば、2003年にガザ地区でイスラエル軍のブルドーザーに轢き殺されたアメリカ人女性の手記による舞台『マイ・ネーム・イズ・レイチェル・コリー』(My Name Is Rachel Corrie)のニューヨーク公演が中止になった。その原因はユダヤ系アメリカ人の反対にあったとされる。リベラル派ユダヤ人は、その事実に、ショックを受けた。
「パレスチナ人の声を代弁する西洋社会の書き手の声を封じておきながら、イスラム社会がムハンマドの風刺画を受け入れないことをどうして非難できるだろう? ヨーロッパやイスラエル本国ではパレスチナ人の人権に関して健全な議論が行われているのに、アメリカではそれができないのはなぜなのか?」
と、ユダヤ系でリベラル派の論客、フィリッフ・ワイスは「ネーション」誌に書いた。
[Rachel Corrie 関連]
- Rachel Corrie [Wikipedia EN]
- イスラエル/被占領地域/パレスチナ自治政府:レイチェル・コリーさん殺害を非難−調査と武器移転の停止を求める [アムネスティ・インターナショナル]
- Rachel's war [Guardian]
- レイチェル・コリーの命日に [P-navi info]
- レイチェル・コリー殺害に関する声明 [ISM]
- Katharine Viner "My Name Is Rachel Corrie" [COUNTER CURRENTS ORG]
- 作者: Rachel Corrie,Alan Rickman,Katharine Viner
- 出版社/メーカー: Theatre Communications Group
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一方、ウォルトとミアシェイマーの論文は、「反ユダヤ主義的」というレッテルによって、思いも拠らぬところから「絶賛」を受ける。白人至上主義団体KKKの元トップ、デヴィッド・デュークによってである。その「動機」は察して余りある。
逆に従来からイスラエルに対して批判を繰り広げていたノーム・チョムスキーは、イスラエルよりも米財界のほうが中東政策に対しては強い影響力をもっている、と発言。
どうやらアメリカの左派は相変わらず互いの足の引っぱりあいをしているようだ。
ロバート・フィクスは「連帯のできない左派」に苛立ちを示す。ウォルトとミアシェイマーは、チョムスキー同様、イラク戦争に反対の立場を取った。
Taming American Power: The Global Response to U. S. Primacy
- 作者: Stephen M. Walt
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- The Storm over the Israel Lobby [The New York Review of Books]
The study also drew criticism from the left, notably from Noam Chomsky. While Mearsheimer and Walt "deserve credit" for taking a position "that is sure to elicit tantrums and fanatical lies," he wrote, their thesis was "not very" convincing, for it ignored the influence that oil companies have had on US policy in the Persian Gulf, and it overlooked the extent to which the US-Israeli alliance performed "a huge service" for "US-Saudis-Energy corporations" by "smashing secular Arab nationalism, which threatened to divert resources to domestic needs.
" US policy in the Middle East, Chomsky argued, is no different from that in other parts of the world, and the Israeli government had helped implement it, by, for instance, enabling the Reagan administration to "evade congressional barriers to carrying out massive terror in Central America." Many would find the Mearsheimer-Walt thesis appealing, he wrote, because it leaves the US government "untouched on its high pinnacle of nobility," its Wilsonian impulses distorted by "an all-powerful force [i.e., the lobby] that it cannot escape."
[ロバート・フィクス関連]
- Robert Fisk [Wikipedia EN]
- Independent Online > Robert Fisk [Independent]
The Great War for Civilisation: The Conquest of the Middle East
- 作者: Robert Fisk
- 出版社/メーカー: Fourth Estate Ltd
- 発売日: 2005/10/03
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*1:その最大のものはアメリカ・イスラエル公共問題委員会(American Israel Public Affairs Committee, AIPAC)