米連邦捜査局(FBI)は、B-2 ステルス爆撃機に関する情報を外国に売り渡したとして、航空機メーカー、ノースロップ社(現ノースロップ・グラマン社)に一九六八年から八六年まで十八年間、航空機の推進システムの技術者として勤務していたノシア・ゴワディア(Noshir S. Gowadia, 61)を逮捕した。
ステルス技術(stealth technology )は、最高度の機能を誇る米国軍事機密(the nation's most sophisticated secrets)だ。
FBIの声明によると、同容疑者は二〇〇二年十月二十三日、ある外国機関の当局者に、赤外線誘導式ミサイル*1からの攻撃を防ぐため、赤外線信号を低く抑える技術について説明した文書をファクスした。この技術は米空軍から極秘に指定されているという。
Ex-Engineer Charged With Selling Secrets [Guardian]
An engineer who calls himself the father of the technology that protects the B-2 stealth bomber from heat-seeking missiles has been arrested and accused of selling U.S. military secrets involving the aircraft to a foreign country, the FBI said. Noshir S. Gowadia, 61, of Haiku was arrested Wednesday.
According to the FBI, Gowadia in 2002 faxed a document detailing infrared technology classified top secret by the Air Force to a foreign official. He also provided classified information to two other countries, the FBI said.
ステルス技術については、江畑謙介のテクストを参照したい。
ステルスとは、スチールから派生した言葉で、「密かに」、「こっそりと」といった意味だが、軍事では「ロー・オブザーバビリティ」などと表現される場合もある。「低被観測性」あるいは制御工学の用語を応用するなら「低観測性」といった意味である。その技術の基本は、敵に察知されるような電波、光、熱線(これらはいずれも波長が異なるだけで、電磁波の一種である)、音を出さない、敵のアクティブ型センサー、例えばレーザーやレーザーなどの反射を極力少なくするというところにある。
迷彩塗装は古くからあるステルス技術で、可視光線の反射線を眩惑し、背景と混同させる方法で敵に認知(探知)されないようにしている。
江畑氏によると、B-2爆撃機は、機体全体を滑らかにしてレーダーのアンテナに戻る電波を少なくしているという。敵のレーダーに捕まりにくい機体であるなら、「敵がこちらの存在を探知できるよりずっと前から、レーザー探知装置などによって敵の存在を知り、追尾し、最適の位置から最適の瞬間に攻撃をかけることができる」からだ。高感度赤外線センサーの場合には、自分からは電磁波を出さず、相手の出す電磁波=熱線を捉える。
B-2爆撃機は無尾翼機であり、胴体がなく、全翼型であり、エンジンの空気吸入口が翼の上にある。このことによってレーザー波を反射しやすくなり、地上のレーザーに捕まりにくい。構造面でも、電波を通しやすい複合材を使用し、内部は電波を何度も反射させて吸収する「櫛の歯」のようになっているという。
そして重要なのは、「ステルス性」こそが、RMA型軍隊=RMA型プラットフォーム(軍事における革命、Revolution in Millitary Affairs)の基本であるということだ。RMAとは、簡単に言えば、情報を最大限に活用し、しかし敵に対してはそれを許さないようにすること、そのことによって効率よく軍事的勝利を導く「革命的な」方式=システム。つまりステルスに関する技術は、米軍における技術的優位(technological edge)、その「革新性」を象徴する基幹技術なのである。したがってその情報漏洩が発覚したということは、アメリカの軍事戦略にとって実に深刻な事態であることは言うまでももない。
Grave consequences possible, experts say [HonoluluAdvertiser]
'TECHNOLOGICAL EDGE'
Stealth aircraft use their technology to hide from radar-guided and heat-seeking missiles.
"If we talk about a technological edge that is a combination of radar suppression and heat-seeking suppression, that gives us a technological edge that no one can beat at this point," Smith said. "Anyone who gives that away is giving away our core technological edge with regard to aircraft."
The reason this is potentially serious for national security is that many U.S. air-to-air missiles rely on infrared homing, locking in on a target's heat source, said physicist Dean Wilkening, director of the science program at Stanford University's Center for International Security and Cooperation.
But the severity of the security breach depends on how close to the research Gowadia actually was and what he gave away, Wilkening said. "He may call himself the father of this but it may be an exaggerated claim," Wilkening said. If his claims are true, the U.S. government "will go after this guy with everything they've got," he said.
The "why" is easier to understand than the stealth technology that keeps missiles off the trail of an airplane's red-hot exhaust.
"The reason foreign governments would like this technology is if they reverse-engineer it, they can apply this to their fighter aircraft," Wilkening said. "If you do that, our air-to-air missiles don't work very well. They can't find the target."
戦場のあらゆる所にセンサーを張り巡らし、その情報をネットワークで繋いで戦場(宇宙空間も含む「バトルスペース=戦闘空間」という)の状況をリアルタイムで把握できるようにし(シチュエーション・アウェアニス)、遠方から精密誘導兵器で攻撃をかける。そして自軍の情報システムを敵の物理的・電子的攻撃から守ると同時に、敵には情報を取らせず、情報の伝達や分析を許さないようにすれば(インフォメーション・ウォーフェア)戦って負けることはないし、自軍は少ない戦力で、短時間のうちに、きわめて少ない被害で勝利を得る(目的を達成する)ことができるはずである。
(中略)
米陸軍のRMAは「デジタル化戦場、デジタル化陸軍」という構想で進められている。これは歩兵からその最高司令部までを一つの情報ネットワーク(タクティカル・インターネット)で繋いで、戦場・戦域全体の状況を把握し、必要な相手に、必要な情報が、必要な内容をもって、必要とされるときに伝達できるようにする、というものである。
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*1:heat-seeking missiles