HODGE'S PARROT

はてなダイアリーから移行しました。まだ未整理中。

ミトロプーロス版《弦楽四重奏曲第14番 嬰ハ短調》



Beethoven & Verdi;Quartets Arr

Beethoven & Verdi;Quartets Arr

弦楽四重奏曲第14番 嬰ハ短調といったら……もちろんベートーヴェンの後期の傑作 Op.131 だ。僕の大好きな曲の一つなのだが、その弦楽合奏版のCDが出ていた。ギリシャ出身の指揮者・ピアニスト・作曲家*1であったディミトリ・ミトロプーロスDimitris Mitropoulos、1896 - 1960)による編曲で、やはり指揮者・ピアニスト・作曲家であるアンドレ・プレヴィンウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と録音したものだ。
カップリングは、イタリアの──厳つい「原典主義者」のイメージのある──指揮者アルトゥーロ・トスカニーニ*2の編曲によるヴェルディ弦楽四重奏曲 ホ短調
ちなみに僕が買ったのは、タワーレコードがディストリビュートしている”ヴィンテージ・コレクション”の一枚で、日本語の解説がついて1000円で販売されている。GJ。


で、このミトロプーロス編曲の弦楽合奏版は、はじめて聴いたのだが、とても気に入った。マーラー版の《弦楽四重奏曲第11番 セリオーソ》では、(もちろん演奏にもよるのだろうが)どうしてもスピード感が──それと、あの「焦り」にも似た前のめりの感じが──犠牲にされてしまう気がするのだが、第14番だと、全7楽章の長大な時間の中で、スローテンポの緩徐楽章が大半を占めているので、そのためベートーヴェンの後期の作品についてよく言われる「晦渋さ」が、むしろここでは「美しい響き(ヴォールラウト)」として大きな魅力になっている。何よりプレヴィン&ウィーンフィルの演奏が抜群にいい。まさに「音楽が膨らみを増し幅を広げる」感じ──CDのジャケットカヴァーの弦楽器がブレて写し出されているのは、そういった意味が込められているのだろうと思う。最後を締めくくるアレグロのフィナーレもカッコいい。
ベートーヴェン弦楽四重奏曲──とりわけ後期作品に馴染みがない人は、このミトロプーロス版から聴いてみるといいんじゃないかと思う。





[関連エントリー]

*1:そして彼はゲイであった。ボーゼ・ハドリーの『ビニール・クロゼット』(JICC出版局)を参照のこと。

ビニール・クロゼット―音楽界を創ったゲイたち

ビニール・クロゼット―音楽界を創ったゲイたち

*2:白状すると、トスカニーニの演奏はまったくといってよいほど聴いたことがない。ディスクも持っていないと思う。ただし、フランコ・ゼフィレッリ監督の映画『トスカニーニ Giovane Toscanini II, Young Toscanini 』は観たことがある。トスカニーニ役のトーマス・ハウエルがチェロを弾いていたシーンが印象的だった。